パリではまず東京のリベンジを
そしてパリではメダルをねらう。
「東京パラリンピックのリベンジっていうのがまず第一です」
準々決勝で中国に負けた悔しい経験が、最大の原動力になっている。
「大前提で優勝です。最低限で3位以内に入りたい。パラリンピックでメダルを獲ることは、だれもができる経験じゃありません。しっかりとメダルを取って、この時代に自分がいたっていう証明もしたいです。そして、家族を含め、多くの人に応援してもらっているので、メダルという結果を見せることは、言葉以上の恩返しになると思っています」
パリでのメダルへの強い思いは、個人の栄光を追求するとともに、周囲への感謝の意味がある。
「どんな形であれ『止めます』」
パリでは自分のプレースタイルにも注目してほしいという。
「ディフェンスでは、『止めます』。どんな形であれ、ボールを止めに行きます!」と力強く宣言する。
「攻撃では、細かく工夫を仕込んでます。例えば、投げる時間を一定にしません。相手が読みにくいようにいろいろな投げ方をします」
また、得点したり惜しいボールを投げたりしたときは、その次を大切に考えているという。
「よかったね、今惜しかったね、とかじゃなくて。じゃあ次こうしたらより崩せるんじゃないか、という発想を常にすることと、その体現を心がけていますね」
「なにくそ」と言いたいことはたくさんある
「ぼくらは昨年8月のイギリスの試合でパリパラリンピック出場権を獲得しました。それでパラ関係者で盛り上がって浮かれてたら、世間は同時期にオリンピックを決めた別の競技で盛り上がってた」
こうした現状に対し、「なにくそ」という気持ちは大いにある。
「でも昔の自分の見ているようでわかる気もするんです。障害者スポーツがまだスポーツとして認められてない。知ってても“かっこいい”じゃなくて“がんばっててすごいね”で終わってしまう」
だからパラリンピックで結果を出し、メディアに出て競技の知名度向上に貢献したい。SNSや講演会を通じてもゴールボールを身近に感じてもらうよう努めている。
「小学校や中学校での講演会など人前に出るときは、髪色を変えたりして、なるべく印象に残るように心がけてます。ぼくを知ってもらい、ゴールボールというスポーツの魅力を広めて、次世代の選手を生むきっかけを作りたい!」
選手活動にとどまらず、ゴールボールの未来をエネルギッシュに切り開く。目指すは、ただの勝利ではない。競技の発展と新たな世代への希望の橋渡しだ。
今年の夏、佐野のパリでの活躍は、ゴールボールの魅力を世界に発信する大きなチャンスだ。視力を失って開花した才能が、視力を超えたスポーツの世界でどんな革命を起こすのか、その瞬間が待ち遠しい。
取材・撮影/越智貴雄[カンパラプレス]