「物書きとしては、多くの人に読んでもらえるだけでうれしいんですよ」
――1990年にTVアニメ『からくり剣豪伝ムサシロード』(日本テレビ系)のコミカライズで初連載。1991年から『おれは男だ! くにおくん』、1996年から『ポケットモンスター』を連載され、キャリアの大半をコミカライズ作品に捧げられました。67歳で『サウナウォーズ』のようなオリジナル漫画にチャレンジしようとしたきっかけはあったのでしょうか?
穴久保幸作先生(以下同) 結論から言うと、人の“死”が身近になったからですかね。
この歳になると、どうしても周りの人間もどんどん亡くなっていって、葬式で骨を拾うことのほうが増えてきました。実は5年前に妻も亡くしているんです。
僕自身も老いを実感してきて、思うように漫画を描けなくなってきましたし、いつ死ぬかわからなくなってきている。
先がないな、と考え始めてから、ふとずっと夢見ていたストーリー漫画を描きたくなったんですよ。僕は18歳で上京してそのまま10年ぐらいはアシスタント生活だったのですが、そのころからストーリー漫画の連載を持つことにはすごく憧れを抱いていましたので。
――当初はギャグ漫画ではなく、ストーリー漫画志向だったんですね!
ギャグ漫画自体にも興味はあって、若いころは『がきデカ』(山上たつひこ)や『すすめ!!パイレーツ』(江口寿史)が好きで読んでいました。おまけにギャグ漫画ってページ数も少ないし、誌面にも載りやすい。そんななか、コロコロから声がかかったこともあって、そのままギャグ漫画家として活動し始めました。
でも、やっぱりストーリー漫画を描きたい意思はずっとあったんですよ。ただ『ポケットモンスター』の連載が続いていましたし、子どももいて生活費を稼ぐのに必死で、なかなかオリジナルを描こうという機会がなかったというワケです。
――コミカライズの仕事が続いた一方、ストーリー漫画の巡り合わせにはご縁がなかったんですね。月日が経って2019年には23年に及ぶ長期連載が続いていた『ポケットモンスター』も「月刊コロコロコミック」で連載が終了。現在もコロコロオンラインで「アニキ編」を連載中ですが、本誌連載が終わったことで一区切り付いた実感はあるのでしょうか?
たしかにポケモンが終わった分、漫画に対して向き合う時間は確実に増えましたね。ギャグ漫画って1話あたり15ページが基本で1話1話にかけている時間はそれほどありませんが、『サウナウォーズ』はページ数を多く使える。
加えて、コミカライズじゃないので表現の制限がなく、自分のアイデアを活かしやすい。まあ今までストーリー漫画をやってこなかった分、話を一から考えるのが大変なんですけどね(笑)。
あとは読者に読んでもらえることって幸せだなと再認識しました。昔は締め切りに追われるばかりで読者のことをあまり意識できていなかったのですが、SNSなどの力もあって感想がダイレクトに来るようになった。やっぱり物書きとしては、多くの人に読んでもらえるだけでうれしいんですよ。それが今の原動力になっていますね。