水泳で自分の可能性が最大限に
3歳で知的障がいを伴う自閉症と診断され、小学4年の時からスイミングスクールに。
「自分にとって水泳は、自分の有する能力を最大限に発揮できる存在であると思います。得意なことと不得意なことの差が激しい中で、自分の得意なところを伸ばしていきたいと思う意味でも、水泳は欠かせない存在です」とハッキリとした口調で答える。
現在は「平泳ぎでは、1ストローク後に1キックしてからの重心移動。それを意識して、より前に進む練習」「ストロークでは、スカーリングという、腕の部分だけで水の感覚を捉えることを意識した練習」といったトレーニングを、重点的に行っている。
さらに、得意の平泳ぎ以外の種目にも力を入れたいという。日本代表チームが最終決定するが、パリでは、平泳ぎに加え「100mバタフライ」「100m背泳ぎ」「リレーでの100m自由形」「200m個人メドレー」への出場の可能性がある。特に背泳ぎと自由形は、東京大会では出場しなかった新たなチャレンジで、東京大会で4位だったバタフライでは「腕のキャッチを意識するための独自の練習」に取り組んでいる。水泳は“自分の可能性を広げる翼”だから、山口の挑戦は止まることがない。
忘れられないロンドンでの経験
2019年、ロンドンの世界選手権で世界新記録を樹立し優勝を決めた。ゴール直後、山口は合掌しながら「ありがとう」と、まわりへの感謝を口にした。その姿に多くの観客が感銘を受け話題になった。その大会での観客の盛り上がりが、とても印象的だったという。
「すごい歓声でした。日本だと野球やサッカーの大一番の試合の応援みたいな。イギリスでは、パラ水泳がエンターテイメントとして捉えられているなという、文化の違いを感じました」
欧州では、オリンピックとパラリンピックが別の扱いを受けないことが一般的だという。
「イギリスでは、オリンピック競泳とパラ競泳は一体となって活動していて、選考会も同時に行われます。だから、オリンピック選手とパラ選手とが交流する機会も多いんだと思います。こうした状況は、水泳選手の視野を広げ、世界観によい影響を与えると思います。実際ぼくも、オリンピックの選手、オリンピック出場経験者と一緒に練習したことがあり、よい経験になりました。日本もそういうふうに進化していけば、もっとパラスポーツが広がるんじゃないかと思います」