「最後まで、正体を言ってくれなかったね」
――介護職員になるきっかけについて教えてください。
鈴木早智子(以下同) ちょうどコロナ禍、訪問看護事業を手掛ける知り合いから頼まれたことがありました。それは、現場で奮闘している職員の方々とリモートで繋いでもらって、メッセージや歌を届けてほしいということでした。
当時、未曾有の感染症に世の中が怯えるなか、介護職員や看護職員の方たちは前線に出て闘っていました。その姿を自分の目で見たことがきっかけだったかもしれません。
また私自身、芸能の仕事だけを長く続けていたこともあり、一般社会のことについて無知だという自覚がありました。なのでコロナ禍をきっかけに、そこに飛び込んでみたいという気持ちもあったと思います。
――長くいた芸能の世界を離れて、一般社会、それも過酷といわれる介護業界に飛び込むのは不安ではなかったですか。
もちろん不安でした、世間知らずだとも思ってますし。生活の中心が車移動だったこともあって、最初は電車の乗り方もよくわからなかったりして(笑)。
でも全部自分で調べて、解決するようにしました。たとえば就職先も誰かの斡旋ではなく、最初から検索して履歴書を送るところからのスタートでした。
――有名人なので困ることも多そうですが。
3年間の介護職員生活のなかで、それぞれ1年間ずつ別々の施設で経験を積ませていただきました。そのいずれも、施設の責任者にはきちんとこれまでの経歴をお話して採用していただきました。
しかし一緒に働く職員に対しては、私がどのような経歴かは介護の現場に関係のないことなので、伏せて仕事をしましたね。
――バレなかったのですか。
やはり皆さん大人なので、詮索されるようなことはありません。ただ、施設を辞めるときに「最後まで(正体を)言ってくれなかったねー」と言われたりもしましたが(笑)。
私はいち介護職員として真剣に向き合い学びたいという想いが強かったので、そんな気持ちを察して、ときに厳しくも優しく指導して下さった同僚の方達にはとても感謝しています。