嫌々アルバイトを始めるが……
ひきこもって1年後、ついに母親の堪忍袋の緒が切れた。
「働かないなら、家から出ていけ!」
毎週、日曜日に新聞に折り込まれてくる求人情報のチラシを渡されて、「行けそうなところに丸をつけろ」と言い渡された。高梨さんは「イヤだな」と思いながら丸を付けたが、そこに応募するでもなく、3、4カ月が経過。ある日、母親が求人のチラシを手に、こう詰め寄った。
「お前、ゲームが好きだろう。ここにゲームセンターと駐車場の警備の仕事が載っているから、どっちか選べ」
「じゃあ、ゲームセンターにします」
そう答えたが、チラシに載っている番号に電話をかけるまで1週間かかった。高梨さんは「今でも電話は苦手ですね」と苦笑する。
「電話だとその場、その場で対応しなきゃいけないじゃないですか。とっさの対応が難しいので」
どうにか電話をかけて面接を受けると、アルバイトとして採用になった。働き先が決まり喜んだのかと思いきや、高梨さんは複雑な心境だったと明かす。
「受かっちゃったんです。受からなきゃよかったのにと思いました」
店舗は大手チェーンの系列で、12、3人のスタッフがシフト制で勤務している。ゲームセンターのフロアを巡回して、お客に呼ばれたり機械の故障などトラブルが起きたら対応する。最初は時給800円。
研修期間が終わると時給850円になったが、それでも当時の最低賃金ギリギリで、収入は平均すると月に12、3万円。その中から3万円程度を家に入れたが、シフトが少なくて月収が8万円くらいの時は、それも渡せなかった。
働き始めるとすぐに40歳くらいの先輩女性に目を付けられ、しょっちゅう怒鳴られた。
「お前はとろいな」「全然、仕事ができない」
当時はゲームセンターの全盛期でお客の数も多く、フロアには常に5、6人のスタッフがいたが、怒られるのはいつも高梨さんだ。
「やっぱり、一番弱いヤツに当たるのは、世の常ですから」
高梨さんはポツリとつぶやくように言う。