(前編)

ひきこもりから脱するきっかけ

リストラされた当時、高梨さんは30歳。家にひきこもったまま、数か月、1年と、あっという間に時間だけが流れる。

だが、前回ひきこもった時とは大きな違いがあった。時間が経つにつれ、「このままではいけない」という気持ちが湧いてきたのだという。

「ひきこもるのは3回目ですからね。さすがに、ここで何かしないとダメになるなと思ったのが、自分で動くきっかけだった気がしますね。不登校のときは何だかんだ言って学生という身分があるから、まだ少しは気持ちが楽でしたが、何にもなくなるとね……」

インターネットでひきこもりの記事を探して読んでいると、東京で開催されているひきこもり向けのイベント「庵-IORIー」(現在は終了)が紹介されていた。行ってみたいと思ったが、そのときは家を出ることもできなかった。次に開催されるのは2カ月後だ。

イベント当日。記事を読んでからすでに4カ月が経っている。さすがにあと2カ月は待てないと自分を奮い立たせて、どうにか家を出た。

「駅に入れなかったら、帰ろう」
「改札を通れなかったら、帰ろう」
「電車に乗れなかったら、帰ろう」

小さなハードルをクリアして、一歩ずつ進んだ。最後のハードルは会場に入ることだ。