「怖すぎるホラー映画は受けない」
―停滞していたJホラー界隈ですが、最近にわかに活気づいている印象です。
2020年の『犬鳴村』(監督:清水崇)と『事故物件 恐い間取り』(監督:中田秀夫)、両巨匠のスマッシュヒットから潮目が変わったように思います。2022年10月に公開された『カラダ探し』(監督:羽住英一郎)も事前予想を上回るヒットを記録していて、ホラーが売れる土壌が再構築されつつあるのを感じますね。
現在の不況の中で、オリジナル映画の企画が通りやすいのはアニメと、実写ではホラー。原作の人気に頼ることなく、オリジナル作品を作れるというのは、映像作家としても魅力があります。また、キャストの縛りがそれほどなく、アイデア次第で、比較的低予算で利益が出やすいのも特徴です。
ただ、今の日本の一般的な映画市場では「怖すぎるホラー」は敬遠されやすい傾向にあるので、そのへんの状況が、自分も含めて根っからのJホラー愛好者、本格ホラーを求める向きには歯がゆいところかもしれません。
―新たな恐怖は、まだ生み出せていないということですか。
その萌芽は十分に見られますよ。『真・鮫島事件』(監督:永江二朗、2020年)『N号棟』(監督:後藤庸介、2022年)『オカムロさん』(監督:松野友喜人、2022年)といった、若手作家による、従来のJホラーの枠に縛られない才気あふれる作品が続々と登場しています。
また「ゾゾゾ」に代表されるYouTubeチャンネルなど、新たなスタイルのホラーが生まれ、若い観客に支持されて、広がりを見せています。こうした流れから新たなホラーのムーブメントが生まれていくと思います。その辺りは過去のJホラーが、ビデオレンタル黎明期に、オリジナルビデオを通して表現され、当時の新しい衝撃、恐怖を求めていた若者に支持されて、ブームが広がっていたのと似ています。
いつの時代も、若い人が新たな表現のプラットホームを利用して新しいコンテンツを生み出す。Jホラーも今、そんな流れの中にあると思います。
―しかし「怖すぎるホラーは受けない」現状で、Jホラーは本当に復活できるのでしょうか。
映画を育てるのは観客だと思います。「こういうものが見たい」という観客の欲求が市場を形成することで、予算のついた映画製作を可能にするわけですから。時代ごとの映画の変遷を左右するのは、一番に観客の目なんです。
私としては、まずはそうした観客の皆さんに、少しでも多くの良質なホラー作品を知ってもらうために、ホラー専門のWEB映画マガジン「cowai」を立ち上げました。ここでさまざまな情報に触れてもらって、いい意味で刺激を受けて、新時代のJホラーを求める機運が高まればいいなと思います。
取材・文/山本安寿紗