「赤い服の女の霊」という大いなる発明
―Jホラーの始まりの1本は、やはり先ほど挙げていただいた「邪願霊」ですか。
そうですね。諸説ありますが、“Jホラーの父”と呼ばれる「ほんとにあった怖い話」『リング0バースデイ』の鶴田法男監督が定義したのが「Jホラーの起源は『邪願霊』、原点は『ほんとにあった怖い話』」です。私も異論はありません。
「邪願霊」は「第三の選択」と同様フェイクドキュメンタリーで、作品そのものが“テレビの取材テープを再構成した映像”という体裁です。フェイクドキュメンタリーは新しい手法のように思われがちですが、もうすでにこの頃からあった。それを心霊ホラーで採用した最初期の作品が「邪願霊」。
ほかにも“画面の背景に映り込む幽霊”など、のちにつながる要素が多分にあって、Jホラーの起源といわれる所以です。
対して、原点はオリジナルビデオ「ほんとにあった怖い話」(監督・脚本:鶴田法男、脚本:小中千昭、 1991年・1992年)になるでしょう。この「ほん怖」で、その後のJホラーの方向性がほぼ決まったと言っていい。それだけ、恐怖の「型」ともいえる表現をたくさん生み出しています。
―具体的にはどのような?
実話怪談のホラー漫画をもとにした作品なんですが、実話ならではの曖昧さといいますか、結果的に「よくわからないから怖い」という部分に焦点を当てています。この「ほん怖」と先の「邪願霊」の両方の脚本を手掛けた小中千昭さん(“小中理論”でホラーファンに知られる脚本家)によれば、「ほん怖」の鶴田監督のホラー演出はいわば“引き算”。音で怖がらせたり、見せ場を過剰に盛り込む“足し算の演出”ではなく、あえて“はっきり描かない”“音で驚かせない”引き算の演出で、しっかり怖がらせるのは非常に難しい。鶴田監督はそれをやってのけたんです。
それから、“赤い服の女の霊”という重大な発明がありました。赤い服を着た髪の長い女が、うつむき加減に不気味な動きをする。この恐怖演出は、その後の内外のさまざまなホラー作品にトレースされています。もちろん、貞子の原型ですね。
―貞子の登場する『リング』(監督:中田秀夫、脚本:高橋洋、1998年)は、世界でいちばん有名なJホラーになりました。
「邪願霊」でまかれた種が、「ほんとにあった怖い話」で形になり、90年代後半、一気に花開いたんです。『リング』のほかに、『CURE キュア』(監督・脚本:黒沢清、1997年)や「呪怨(オリジナルビデオ版)」(監督・脚本:清水崇、1999年)といった傑作が立て続けに誕生しました。