「“わからない”を小説で問う」木下昌輝×朝井まかて『愚道一休』_1
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愚道一休
著者:木下 昌輝
定価:2,200円(10%税込)
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風狂に生きた室町時代の破戒僧・一休宗純(いっきゅうそうじゅん)。
禅の道を究めんとした男の生涯に真っ向から挑んだ、木下昌輝さんの『愚道一休』がついに刊行されました。
今回は、大阪文学学校 (文校)の先輩でもある歴史小説の名手、朝井まかてさんをお迎えして、約十年ぶりの対談が実現!
文校伝統の「合評」で、互いの創作論をぶつけ合うなど、関西弁で繰り広げられるお二人の軽快なトークをご堪能あれ。

聞き手・構成/細谷正充 撮影/香西ジュン

「“わからない”を小説で問う」木下昌輝×朝井まかて『愚道一休』_3

一休宗純を書く

――まず木下さんにお伺いしますが、なぜ一休を書こうと思われたのでしょうか。

木下 以前、「小説すばる」で書かせてもらったのが、天才絵師・絵金(えきん)(弘瀬金蔵(ひろせきんぞう))を主人公にした『絵金、闇を塗る』でした。次の作品も絵金みたいなアバンギャルドで芸術家のような人がいいかなと考えて、思いついたのが一休。彼の生き方はアーティストと言ってもいいんじゃないかと。それで一休を書きたいですって言ったのが始まりですね。
朝井 木下君は、もともと一休に関心があったの?
木下 実はあまりなかったですね。アニメの『一休さん』は見てましたが、晩年に森侍者(しんじしゃ)という女性と好(い)い仲になった程度のことしか知らなかった。そこから調べてみたんですけど、これがなかなかよくわからない。『狂雲集(きょううんしゅう)』という一休の漢詩集があるんですけど、そこに載ってるのは、“エロ詩吟”みたいなものすごく卑猥(ひわい)なものやったり、養叟(ようそう)(一休の兄弟子)のことを放送禁止用語でめちゃくちゃに貶(おとし)めてたりする詩。いろいろ取材にも行かせてもらったんですけど、その中で堺(さかい)の学芸員の先生が、一休と養叟は漫才師と同じ、西川きよしと横山やすしみたいなもんなんやって言わはって。
朝井 “やすきよ”!
 

木下 そう、仲は悪いけど笑わせるっていう方向性は同じやからと。
朝井 うまいこと言わはるね。
木下 当時の禅は腐っとったから、一休も養叟もそれをなんとか糺(ただ)そうとした。仲は悪いけど目指してる道は同じやったんやって言われて、これを芯にして書いたらいいんやなと思ったんです。
朝井 なるほど。でも、一休のアーティストとしての一面から入ったというのは意外でした。
木下 一休を知るうえで、詩は一番とっつきやすかったので。だけど、公案(こうあん)(修行のために老師から与えられる問題)の意味が全然わからなかったんですよね。両手を打ち合わせたら音がするけど、片手やとどんな音がするか(「隻手音声(せきしゅおんじょう)」)とか、全然意味がわからん。でも、わからないことを題材にしたほうが面白いというのもあるじゃないですか。なんでこの人、こんなことしたんかなとか。
 

朝井 おっしゃるとおり、わからないから書くことで迫りたいんですよね。私は木下君が一休を書くって聞いたときに、うわ、すごいところに入っていくんやなと驚いたんです。でも、アーティストの面から入ったと聞いて、なるほどと思いました。私は一休っていうと、まず臨済禅を思い浮かべるから。
木下 そうなんですか。僕は一休が禅の人っていうイメージが最初はあんまりなかったですね。

「“わからない”を小説で問う」木下昌輝×朝井まかて『愚道一休』_4