マンガを読んでも楽しくないけど読む

対話するときは、母親には以下のことに気をつけてもらうようにお願いした。

・アドバイスをしないこと。
・自分の考えをわかってもらおうとしないこと。
・こころが何を考え、どうしたいのか、興味を持って聴くこと。


こころは、母が作った夕食を食べながら何気なくスマホを開いた。前の日に読みかけていた続きが気になり、マンガアプリを開いた。

「こころ、昔からマンガ好きだよね。今は何読んでるの?」

母が言った。こころは、今ハマっているマンガについて説明した。好きなマンガについて話すのは楽しかった。

「この主人公が、始めと今とでだいぶキャラが変わってるんだよね。今の方が絵もキャラも私は好きなんだけど」

「こころは、マンガを読んでいるときが一番楽しいの?」

「楽しいってわけではないけど、マンガを読んでいるとホッとするんだよね。嫌なことがあると、つい、マンガアプリを開いてしまうの。いい加減見すぎだってわかってるんだけど、途中でやめられなくなっちゃって。この前、実は遅刻しちゃったの。明け方まで起きてて、いつの間にか寝てて、目が覚めたらアウトだった……」

起きたらまずチェック、風呂場まで持っていく、着信音が気になる…恐怖!“スマホ依存症”の度合いがわかるチェックリスト_4

母は「マンガアプリを削除したら」と言いそうになったがグッと我慢した

母は、マンガアプリを削除したら、と言いそうになったがグッと我慢した。

「それで?どうなったの?」
「すっごいイヤミ言われた。その後は、いつものようにみんなシカトだよ」「シカト?みんなに無視されてるの?」
「まあね。もう1年くらい続いてるから慣れてるけど」
「誰かに相談した?」
「いや、言える人いないし……」

母から目を背けながら、ぶっきらぼうに言った。こころは、これ以上何か言ったら、涙があふれそうだったので、その後はしばらく黙っていた。

母も目の前の煮物が冷めていくのを見ながら、食べる気にならなかった。

母は自分を恥じた。何も知らないで、ただスマホを取り上げればいいとか、アプリを消せばいいとか思っていた。正直なところ、スマホでマンガばかり見ているから、脳がおかしくなってうつ病になるのだと思っていた。そんな自分が腹立たしかった。

「……こころ、辛かったね」

「お母さんに、本当は聞いてもらいたかった。ねえ、どうしてこんなことになったのか、聞いてもらってもいい?」

その日、夜ふけまで2人は話した。親子で同じ仕事をしていると、いろんな苦労が分かち合えた。母も娘に仕事でのあれこれを話して、時間はどんどん過ぎていった。こころはスマホを開くことなくベッドに入った。そして久しぶりに深い眠りに落ちていった。