円安とは「国そのものの価値」を映す鏡
香港でもシンガポールでもハワイでも、日本人観光客は世界有数の購買力を持つ存在だった。しかし、今は完全に立場が逆転した。
欧米や中国だけではない。タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、そしてベトナムなど、かつて日本人が経済的な優位性を持っていた東南アジア諸国からも、多くの旅行者が「安い日本」を目指して押し寄せている。
彼らは日本で買い物をし、日本で食事をし、日本で宿泊し、「日本は安い」と満足して帰っていく。その姿を見るたびに、十数年前まで我々日本人が海外でしていたことを、今度は日本がされる側になったのだという現実を痛感する。
円安とは輸出企業の利益を押し上げるだけの話ではない。国そのものの価値を映す鏡なのである。
一方で政府は、日本独自のAI開発を国家戦略の柱に据え、ソフトバンクやソニーなどを中心に巨額の予算を投入するとしている。しかし、私はその政策にも冷静な視点が必要だと思っている。
米国や中国のトップAI企業が1年間で投じる研究開発費や設備投資は、日本が巨額だと胸を張る1兆円とは比較にならない、桁が1つ、2つ違う世界で競争しているのである。
さらに見落としてはならないのは、その1兆円という数字そのものだ。円の価値がここまで下落した現在、1兆円という予算は、もはや昔の1兆円ではない。
国際的な価値で見れば、その実力は大きく目減りしている。私は、1兆円と言っても実質的には6000億円程度の感覚で考えるべきだと思っている。
つまり、円安は企業の利益を押し上げる一方で、国家予算の実力までも静かに奪っているのである。
日経平均が過去最高でも日本が貧しくなる矛盾
さらに忘れてはならないのが防衛費である。日本は米国から莫大な防衛装備品を購入している。その価格はドル建てで決まる。当然ながら円安が進めば進むほど、日本円で支払う予算は膨らみ続ける。
食料も、エネルギーも、防衛装備品も、円安は国家財政と国民生活の双方に重い負担を積み上げていく。株価だけを見ていれば景気が良く見えるかもしれない。しかし、その裏側では、日本人全体の購買力は静かに失われ続けているのである。
私は、株価と国力はまったく別物だと思っている。日経平均株価が史上最高値を更新したからといって、日本という国が史上最も豊かになったわけではない。













