「王様とサラリーマン」(集英社文庫・コミック版10巻収録)

アラブ王子の人生にしみる名言

恋はかなわなかった。仕事も思うようにいかなかった。夢だって途中で終わった。そういう経験をすると、人はつい「あの時間は無駄だった」と考えてしまう。結果が出なかった以上、意味はなかったのだと片づけたくなるのだ。

だが、『サラリーマン金太郎』第96話は、そんな考え方をひっくり返してくる。

この回で描かれるのは、金太郎と同僚の女性社員・篠塚さん、そしてアラブの王子とのやりとりだ。王子は篠塚さんに強く心を動かされ、第四夫人として迎えたいと申し出る。篠塚さんはそのために国へ招かれ、金太郎も同席することになった。

現地で篠塚さんは、王子本人だけでなく、ほかの妻たちからも手厚い歓迎を受ける。最初は冗談のように見えた話だったが、そこで初めて、王子の思いが本気だったことがわかってくる。

だが、それでも篠塚さんは最後にこの縁談を断る。相手の気持ちが本物だからこそ、軽い気持ちでは受けられないとわかったからだろう。

王子からすれば、篠塚さんを招くために大きな時間も労力も使っている。言い方は悪いが、すべてが空振りに終わったようにも見える。だが彼は、そこでこう言うのだ。

「残念だが私と出会い使った時間を無駄と思わないで欲しい……」「人と人が知りあった時間はすべて有意義だ 私はそう思っているから……」と。

これは恋愛だけの話ではない。実現しなかった企画も、途中で辞めた仕事も、届かなかった夢も、結果だけを見れば失敗に見える。だが、その過程で見た景色や、誰かと交わした時間まで無価値になるわけではない。

大人になるほど、物事を結果だけで測りがちになる。だからこそ、この言葉は強く残る。うまくいかなかった出来事さえ、まるごと無駄ではなかったのだと思わせてくれる回である。