「金太郎、アラビアへ。」(集英社文庫・コミック版10巻収録)

金太郎が会社を辞める宣言

会社で理不尽な目にあった時、人はすぐ「もう辞める」と言いたくなる。次から次へと面倒が降りかかるサラリーマンなら、なおさらだろう。『サラリーマン金太郎』第95話は、まさにそんな瞬間を描いた回である。

前話で金太郎たちは、アラブの大物を接待しながら日本各地を案内し、自社の不動産を売り込もうとしていた。

ところが、その動きが通産省に問題視され、呼び出しを食らってしまう。しかも相手は、ただ状況を確認するのではなく、責任の所在や今後の影響をちらつかせながら、上から物を言ってくる。現場で動いた側からすれば、腹が立たないはずがない。

金太郎がキレたのもそこだった。上から目線で嫌みのように責任論ばかり並べる相手に向かって、「机の上でゴチャゴチャやって出た結果に責任の“せ”の字も取らねえ商売とは商売が違うんじゃあ!!」と怒鳴りつける。

だが、その騒ぎはすぐに本社にも伝わる。黒川社長から直々に電話が入り、ふてくされた金太郎は、ついに「会社やめます」と言い出してしまう。会社のために動いたはずなのに、通産省に責められ、今度は社長からも叱られる。そう思えば、投げ出したくなる気持ちもわからなくはない。

しかし、ここで黒川社長が浴びせた言葉が重い。「逃げてみろ ぶち殺すぞ このガキッ」と。

金太郎が理不尽や権力に腹を立てるのはわかる。だが、そこで「辞める」と言って席を蹴るのは、結局は仕事から降りるということでもある。自分の気持ちには筋が通っていても、途中で投げ出してしまえば、それはただの子どもだ。黒川社長の叱責は、まさにそうした金太郎の甘さを突いている。

結局、金太郎はもう一度通産省と向き合い、話を聞き、仕事を前に進めようとする。感情的な一時の判断で全部を投げるのではなく、怒ったあとに仕事へ戻れるかどうか。そこにサラリーマンとしての強さがあるのだろう。

仕事で発作的に「辞めたい!」と思った際は、ぜひこの回の漫画を読んでほしい。