グローバル化という「秩序」

だが、アメリカが世界規模の帝国を求めなかったいちばんの理由は、アメリカがすでに帝国を1つ持っており、それ以上の帝国を望まなかったからだ。アメリカが北米大陸に持っている有益な土地は、かつてのいかなる帝国の土地よりも高い潜在力を備えている。

終戦時にはまだ、アメリカはそれを利用し尽くしてはいなかった。それを利用し尽くすには、さらに数十年は必要だった。人口密度を考慮すれば簡単に、現在でもなお利用し尽くしてはいないことを立証できる。

それなのになぜ、息子や娘を海外に派遣し、現地の人々と毎日流血の戦闘を繰り返し、地球規模の帝国を維持する必要があるのか? デトロイトやデンバー周辺の道路の建設現場で働けば、そんな兵士と同じ程度の給与を手に入れられるというのに?

アメリカは従来の国際政治から決別して、戦後に勝者が戦利品を奪う慣行を放棄しただけではない。人間の存在の質にまで影響を及ぼし、人間の生活条件を根本的に変えた。

終戦時にアメリカは、ブレトンウッズを利用してグローバル化という「秩序」を生み出し、ゲームのルールを一変させた。同盟国や敵国を従属させるのではなく、平和と保護を提供した。それまでいがみ合っていたほとんどの帝国(数世紀にわたり、立場を変えながら過酷な競争を繰り広げてきた国々)を同じチームに引き入れ、地域の地政学を変化させた。

ブレトンウッズ協定が締結されたマウント・ワシントン・ホテル。写真/Shutterstock
ブレトンウッズ協定が締結されたマウント・ワシントン・ホテル。写真/Shutterstock

それにより、帝国間の敵対関係が、国家間の協力関係に置き換わった。ブレトンウッズの参加国の間では軍事競争が禁止されたため、かつての帝国もその植民地も、もはや陸軍や海軍や国境地帯に力を注ぐ必要はなくなり、インフラや教育や経済発展に全力で取り組むことが可能になった。

食料や石油を求めて戦わなければならない時代は去り、どの国もグローバルな貿易に参加する権利を手に入れた。帝国を撃退しなければならない時代は去り、どの国も自治と安全を手に入れた。

それまでの1万3000年の歴史に比べれば、これは願ってもない取引だった。しかもこの取引は、みごとに機能した。ブレトンウッズはわずか45年で、ソ連を封じ込めるどころか、ソ連を窒息死させることに成功した。そして、人類史上最長にして最大規模の経済成長と安定の時代を生み出した。

少なくとも災難が訪れるまではそうだった。アメリカが勝利するまでは。