鼻がもげる、溶ける以上に恐い梅毒のリスク
――そんな相手を説得できるのは押川さんだけだと思います。
一緒に行ったもう1人のスタッフはぶん殴られちゃったんですけどね。余計なこと言うから。真面目に病気のことを伝えたり、今こんな状況だとか言うんですけど、私は人間として本質的なところに訴えるのが自分の役割だと思っているんですよ。
例えば、専門家って世の中にいっぱいいるじゃないですか。でも、いくら専門的なことを伝えても解決はしない。頭で理論的にはわかっていることよりも、実際に現場に行って肌で感じたことのほうが正しいということがあります。
脳梅毒の方と対峙してみると、3語しか話せないけど、人間的な部分は感じました。だから、梅毒でこうなったというからやっぱり「女が好きなんだ」と思って。「おいちゃん。そんなにヤマ盛りやったんか」「いい男やん」みたいな感じでコミュニケーションをとるんです(笑)。
でも、みんなそういう扱い方はしないんですよ。乱暴なやばい奴だから病院につなげるとか。でも、こういう人たちは人間的な部分からアプローチしていかないといけないと考えています。このケースも、担当が女医さんだったんで、私は「女の先生が待ってますよ」と言ったら、ニヤリとして。「きた!」と思いました。
――シンプルだけど、本当に本質的な話ですよね。
これはなんなんでしょうね。世間体として恥ずかしいのか、アカデミックじゃないから伝えないのか。現場の人間の対応として単なる職人芸として落とされるのか。
――梅毒の実情を伝えたことでの反響は?
やっぱりみんな鼻がもげるとか、溶けるとかいう認識はあっても、ああいう斑点ができたりっていうのを漫画で見せておくことは大事なのかなと思いました。なんとなくイメージで考えてるものと、実際の病気が全然違うんだってことで、びっくりしたという意見が多かったですね。
脳にまでいくケースは、確率的には少ないんだろうけども可能性は間違いなくありますから。可能性が少ないものになるとメディアも取りあげないし、スポットライトを浴びないんですよ。それをどうやって見せるかが私の役割なのかなと思っています。
それは、この漫画自体がもともとそうであって、ほとんどの人が関係ないっていう。ただ今はこうした問題がどんどん身近になってきたし、他人事じゃないよという時代になってきてるので。また支持されるようになったのかと思います。
#9へつづく
#9 親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…児童養護施設の目を背けたくなるような現実を描いた「それでも、親を愛する子供たち」
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