現状影響はないものの「不安は尽きない」

いわき市内の50代飲食店店長も、中国からのいたずら電話が鳴り止まず、地元警察に相談までしたという。

「初めにいたずら電話があったのは処理水を放出開始した24日。
発信は“86”から始まる番号でしたが、うちは普段から外国のお客さんが多いから気にせず電話を取ったんだけど、無言電話で。気になってかけ直したら、ののしるような口調で中国語が飛んできたんです。
これ以降、中国人から昼夜問わずに電話がかかってくるようになり、この1週間ほどで60件を超えました。あまりにも多いので警察にも相談したんだけど、いたずら電話がなくなる気配はなくて本当に困っています」

“86”から着信。中国からのいたずら電話
“86”から着信。中国からのいたずら電話

幸いなことに中国からの迷惑行為があった店も「今のところ、処理水放出以降も売り上げは変わらない」と話しており、全体で見ても中国の水産物輸入全面禁止によって懸念されていた「値崩れ」も今のところは起きていない。
しかし、いわき市内で30年ちかく鮮魚店を営む50代男性は将来への不安を口にする。

「処理水の影響かはわからないけど、これまで外国人に人気だった伊勢エビの売れゆきが悪くなった。
その他にそこまで大きくお客さんが減ったわけではないとはいえ、処理水の放出は30年もかかるんでしょ?
その間に何か問題が起きれば、『やっぱり福島の魚は危ない』ってイメージになってしまうし、震災の記憶が薄まればみなさんの『福島を応援しよう』という気持ちもなくなってしまう。
政府がきちんとしたプランを出してくれれば状況はまた違うんだろうけど、全然先が見えないし、不安は尽きないよね……」

〈小名浜漁港ルポ〉処理水海洋放出で頭を悩ませる漁業関係者たちの本音。中国のSNSでは「原発処理水がゴジラに変える」と中傷、フェイク動画やいたずら電話はなくならず_7
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岸田総理は9月4日、記者団の取材に対して「水産業を守り抜く。しっかりと責任を果たしていきたい」と強調し、中国による日本産水産物の輸入停止の影響を受けた水産業者への追加支援策に207億円を拠出する考えを示した。
しかし、これで福島の漁業関係者の不安を払しょくできるかどうかとは、また別の話だろう。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/Soichiro Koriyama