コロナ禍で収入が減り“飛んでいく”ヤクザたち
一概にカタギになるといっても、そこには2種類の人間がいるという。“自分からカタギになりたい者”と“カタギにならざるをえない者”だ。
「このふたつは全く違う」とA氏は言う。
「自分からカタギになる。カタギになりたい、組を辞めたいという人間は、先のことをしっかり考えている。就職しても長続きするし、自分で仕事を見つけ出す力もある。起業するようなヤツもいる。自分から辞めたいと言い出す者を引き留めておくほど難しいことはない」
一方、カタギにならざるをえない者とは、組を「飛んで」破門状を出されたような者や、不祥事や問題を起こし処分、絶縁状を出された者のことだ。A氏の組でも、コロナ禍で飛んだ組員がいる。飛ぶとは、組を逃げ出すことだ。
「事務所にいれば、タダで飯が食えた。電話番として座っているだけで金がもらえる。事務所で組長や幹部が麻雀を始めれば、そこで小遣いがもらえる。だが六代目山口組の抗争で多くの事務所は使用禁止になった。電話番も当番も必要なくなり、これで生活していた組員は食べていく術がなくなった」
同じようなことがいくつもの組で起きたという。コロナ禍で組が関係する屋台や飲食店でバイトすらできなくなった。
どこの組織も事務所を閉めた。コロナ禍で緊急事態宣言が発令されると、組長らも外出しなくなった。すると運転手も必要なくなる。動きがなくなれば、住み込みでいた組員は仕事が減る。誰も訪ねてこないから、小遣いをもらう機会もなくなる。ヤクザをやっていても食べられなくなり、彼らは飛んでいく。
暴力団では飛んだ組員を探し出し、捕まえて暴行し、組に戻すというイメージが強いが「今はそんなことはない。ヤクザとしての正当なシノギがなくなってきた組織もあるほどだ。わざわざ飛んだヤツを探し出して戻すような手間はかけない」と暴力団関係者M氏は言う。
A氏も「飛んだヤツには破門状を出してやる。そんなヤツを引き留めておくのは組の恥」とまで言う。だが、中には頭にきて破門状を出さない組もあるようだ。破門状が出なければ、飛んだ組員はいつまで経っても形式上は組の一員のままだ。
A氏は組の若い衆に常日頃から「お天道様の下をきちんと歩けるように、逃げ出したりせず、ちゃんと辞めたほうがいい」と話しているのだと言った。