カタギになりきれず犯罪者となるケースも
ヤクザの世界では、六代目山口組の分裂抗争以来、辞めたいという者が多くなったらしい。組によっては、抗争でいつ自分も身体をかける(長い懲役へ行く)ことになるのかと不安に思う組員もいる。
「自分も将来や家族のことを考え、これを機にカタギになろうと決心した」というある元組員は、組員の時によく通っていたラーメン屋で修行している。年老いた店主が彼の過去を知った上で雇ってくれたのだ。しかし、まっとうにカタギに戻れる人間ばかりではない。
「破門された知り合いは、『普通の仕事に就いてもバカバカしくてやってられない』と、次々に仕事を変えていった。今はどこにいるのか音信不通だ」
暴力団の下部組織の元組長だった50代の男は、金銭絡みの問題を起こし上部団体から絶縁状を出された。組を離れて就職先を探したが見つからず、経営コンサルタントを自称してブローカーになったものの、うまくいかず食い詰めていた。そこであるセミナーで知り合った中小企業の社長に因縁をつけて恐喝。社長は警察に相談し、元組長は逮捕されて有罪となった。
詐欺の前科を持つ40代の元組員は、不祥事を起こして破門された。カタギとなった後、今度は右翼団体に所属したが、そこでまた詐欺事件を起こし有印文書偽造罪で逮捕された。
両者ともカタギになれずに犯罪者になったパターンだ。汗水たらして働くのを嫌い、暴力団時代に使った手法で手っ取り早く稼ごうとしてしまった。
「もともと自分から悪さをして、ヤクザを辞めさせられたような者は、カタギになったところで昔のやり方をなかなか変えることができない」(M氏)
カタギにならざるをえなかった者の中には、暴力団組織に逆戻りする者もいる。彼らはヤクザとしての渡世名を変え、他の組織に入っていく。また、薬物で懲役に行き、破門されても薬物ほしさに違う組織に入る者もいるという。だが、他の組織に入れば噂になる。噂になれば、前にいた組はきっちりクレームを入れることになる。
「バレたらケジメものだが、分裂抗争が起きた後は、拾ってくれる組織がけっこうあった。六代目山口組を破門されたが、神戸山口組に拾われたという話は聞いたことがある」(M氏)
その他、“組が仕事をやらせるためにカタギにする”というケースも。自分から進んでなる場合もあれば、組織のために表向き、という場合もある。暴排条例における「元暴5年条項」と呼ばれる制限は、このような“偽装カタギ”の存在を警戒してのものだろう。だが、その制限が“カタギになりたい”という者の社会復帰を難しくしているのも確かだ。
カタギになるのは簡単だ。
だがカタギとして、世間に溶け込み、生きていくのは難しいということだろう。
取材・文/島田拓
集英社オンライン編集部ニュース班
「シニアの元ヤクザの8割は生活保護」暴力団離脱後に直面する厳しい現実。「引退してもクレカどころかTSUTAYAカードのも作れない」「元組員だと明かせば色眼鏡で見られ…」 はこちら