あなたの個人的な問題が、実は社会的な普遍性があるかもしれない

6人の入管職員に「制圧」されガーナ人男性が死亡した事件の絶望から、社会を変える挑戦へ…弁護士・谷口太規が公共訴訟に取り組むワケ_3
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大澤 ただ、とにかく、やっぱり講義をするときにいつも思うのは、自分にとって非常に深刻に気になっていること、というか、「探求というものに自分を駆り立てている問題」というものを、そのときに言う、ということです。 

「自分がこんなに気になっていることには、普遍的な意味があるはずだ。だから、そのことをみんなに納得してもらいたい」というような感じなんです。本当は、正直、あんまり講義の準備をしないんですよ。 

谷口 それは知っていました(笑)。 

大澤 どうせ、そのとき自分が考えたことを言っているんだから、誰かに教えてもらうことはない、みたいなこともあって、講義の準備をあんまりしなくて、ちょっとそれは申し訳なかったかなと思うこともあるんだけど(苦笑)。ただ、やっぱりそのほうが通じることもあって。 

これはちょっと今日の話とも関係あるんですが、僕は話をするとき、けっこう寓話というものを重要視するんですよ。つまり、「煎じ詰めればこういうことになっちゃうでしょ」って一般論みたいに言っても、人には通じないんですよね、本当に。でもひとつの寓話的に語ったときに、人は「ああ、なるほど」と思うわけです。 

なぜそれがこの公共訴訟と関係あるかというと、公共訴訟の問題で僕が一番重要だと思うことは、当事者はみんな「これは自分の個人的な問題だ」と思っているわけです。「自分はこんなことで嫌な思いをしている」と。 

「でも、そのあなたの個人的な問題が、実はいかに社会的な普遍性があるか、公共性があるかということを証明するために、法というのがあるんです」ということだと思う。社会を変化させるときの鍵は、そこだと思うんですよ。 

谷口くんがすばらしいなと思うのは、一方で、訴訟があったときに、その個人に寄り添うという仕方が半端じゃない。「そこまでやっていたら体もたないぞ」と心配になるほど、その個人に入れ込んでいるんです。その個人に入れ込んでいることが、そのまま今度はCALL4の形のように、一種の公共の問題になっていく、という、その両極ですよね。 

すごく「私」の問題に寄り添える、という部分がなければ、意味がない。個人に寄り添えば寄り添うほど、なお一層社会的な問題でもあるという、そのつながりですね。 

個人にとっては、自分の本当にただ個人的な悩みで、しかも無力感を感じている。「社会というのは絶対に動かない」と。 

そういう個人と社会との媒介になるためには、その両極が大事です。今日の対談のタイトルの「〈ひとり〉から公共へ」です。「いかに〈ひとり〉のその固有性にこだわるか」ということが、「どうやったら公共につながっていくか」という。一見対立しているんだけど、そこが一挙につながっていく――それが公共訴訟というものの一番重要な部分だなと僕は思うんです。

構成/稲垣收 写真/伊吹早織 

はじめての公共訴訟 社会を動かす、私たちのツール
井桁 大介 (著), 亀石 倫子 (著), 谷口 太規 (著), 丸山 央里絵 (著)
はじめての公共訴訟 社会を動かす、私たちのツール
2026/5/15
1,012円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4087214109

社会の中で「おかしい」と感じたとき、不条理な壁に突き当たったとき、私たちは何ができるのか。差別、労働、環境問題、ジェンダー、社会保障──さまざまな課題に対し、裁判という方法で社会のあり方を問い直し、変革を働きかけるのが「公共訴訟」である。
本書は、実際の事例や当事者の物語を手がかりに、その歴史と役割を解説。公共訴訟はどのような戦略、連帯によって社会を変えてきたのか。裁判を「社会を動かすツール」としてとらえ、個人の声が制度や社会を変えていくプロセスと、その可能性を示す入門書。

同性婚訴訟、タトゥー裁判、大川原化工機事件、立候補年齢引き下げ訴訟……
もっと公正な社会を生きたいあなたへ

◆推薦◆
よりマシな社会をあきらめたくないすべての人へ。
ここに私と公共をつなぐ回路がある。
──哲学者 朱喜哲氏

少数の痛みは、「大したことない」ことにされやすい。
「こうなってほしい」が、感情の問題と一瞥(いちべつ)される。
公共訴訟はそんな社会の扉をこじ開ける、希望。
──NO YOUTH NO JAPAN創設者 能條桃子氏

自分たちの手で社会はどんどんよくしていくことができるなんて、なんだ、最高じゃないか。
──小説家 山内マリコ氏

◆目次◆
第1章 声をあげる人々、その物語──公共訴訟を知る
第2章 公共訴訟は社会をどう変えるか
第3章 公共訴訟の誕生と歴史
第4章 データで見る公共訴訟
第5章 なぜ数が少なく、勝ちにくいのか──公共訴訟の抱えるハードル
第6章 新たな動きが生み出す、新しい連帯
第7章 公共訴訟の未来

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