逆転無罪
2018年9月、控訴審の第1回公判。満席の傍聴席を背に、私は次のような弁論をした。
これは、ひとつの職業の存続をかけた裁判です。
原審、大阪地裁の判断は、この国から、彫師という職業を葬り去るものでした。彫師たちに突き付けられたのは、この誤った、過酷な結論と、それを受け入れさせるには、あまりに乏しい、わずかな理由だけでした。
連綿と受け継がれてきた歴史。
タトゥーを彫ることを仕事にする人々の生活。
そうしたものへの、わずかな配慮も読み取れませんでした。
この国には、何百年も前から、入れ墨をする風習がありました。
彫師という職業が存在しました。
誰もが知っているはずです。
ところが、安全にタトゥーを施術するために、どんなルールが必要なのか。
それが民主主義の過程で議論されたことは、これまで一度もありませんでした。
突然、刑事裁判で、彫師が職業を続けることを禁じられ、犯罪者とされたのです。
この結論に納得できるほど、私たちの社会はタトゥーと向き合ってきませんでした。
(中略)
本件は、およそ医療とは無関係の行為について、それが医行為に当たるかどうかが争点となる、歴史上はじめての裁判です。
そして、数百年も前から続いてきた職業が、明確な法律もなく、無理な法解釈で実質的に禁止される事態も、歴史上、はじめてのことでしょう。
ひとつの職業を、社会から葬り去るというのであれば、民主主義の過程で議論することが、不可欠ではないでしょうか。
原判決には、このことに対する熟慮も、覚悟も感じることはできませんでした。医師法の解釈としても、憲法が保障する価値からしても、そして刑事裁判の原則からしても、明らかに間違っています。
今、ここにいる3人の裁判官に、原判決の誤りを正し、被告人に無罪を言い渡していただきたいと思います。
そしてこの問題を、本来あるべき場所に、民主主義の議論の場に、戻していただきたいと思っています。
裁判長は、弁護団が新たに請求した23点の証拠を職権ですべて採用し、控訴審は結審した。そして2か月後――。
「主文、原判決を破棄する。被告人は無罪」
一瞬の沈黙の後、傍聴席から拍手と歓声が起こった。
「おめでとう!」
「よかった!」
「無罪だ!」
私は信じられないような気持ちで傍聴席を見ていた。被告人席で安堵の表情を浮かべている彫師、傍聴席で泣いたり抱き合ったりしている彫師たち、意見書を書いてくれた医師と研究者たち、法廷を飛び出していく記者たち。
「静かにしてください」
「立ってる人は座って」
裁判長の声で我に返り、判決の続きを聴いた。













