「2ラウンド、いかないよ」の真意

「人生はどこまでたどり着けるかを知る旅。培った経験をすべて使う」
そう語っていたドネアも、静かに覇気を放っていた。泰然とした立ち姿に、老練さが浮かぶ。WBC正規王者、WBC暫定王者を破り、一つの極みに達しようとしていた。

試合は、真の王者の対決になった。

1ラウンド、ゴングが鳴ると、ドネアがいきなり左フックを入れ、フィリピンの閃光を放つ。間合いをはかりながらもフットワークを使い、前へ出る。計量後も、そこまで体重を戻していない。スピードを維持し、一気に勝負する作戦だったか。

バンタム級に敵なし。モンスター・井上尚弥に階級転向の壁はあるか_c

「右目に左フックをもらった瞬間、効いたわけじゃないけど、目が覚めたというか。立て直さないとなって。1ラウンドは絶対取りたかったので、それ以上のインパクトを与えないと、と思っていました」

そう語った井上は、前回の悪夢が蘇る光景を振り払うように攻防のテンポを上げた。残り10秒の合図が出た時だった。井上は「少しだけエンジンをかけた」と明かすが、右クロスカウンターを入れ、ダウンを奪う。それが本人の手応え以上のダメージになった。

バンタム級に敵なし。モンスター・井上尚弥に階級転向の壁はあるか_d
バンタム級に敵なし。モンスター・井上尚弥に階級転向の壁はあるか_e

ドネアが立ち上がったところでゴングが鳴り、1ラウンドが終了した。

「2ラウンド、いかないよ」

インターバルで、井上はセコンドにそう話していたという。旺盛な戦闘意欲を自ら制御するための自戒でもあった。相手を警戒すべき、という気持ちと、すぐにでも倒したい、という気持ちがせめぎ合う。
「どれだけのダメージか、分からないところもあったので、様子を見ようと思っていました。自分を落ち着かせるためにも、あえていかないよ、と口にしたんですが。(ゴングが鳴ったら)行っていましたね(笑)」