もしかして普通にいい人生なのでは?
──座二郎さんって、自分で造った素敵な家に住んで、パートナーもお子さんもいて、大学で学生に教える仕事もして、漫画やイラストのようなクリエイティブな仕事もして、なんだかすごくいい人生を送ってるように見えますね。本当に人生に不満とかあるんですか…?
座二郎 不満しかないよ!家がちょっときれいなのが悪いんだろうな。今はリビングにクリスマスツリーもあるからやたら幸せそうに見えるし…。でも、本当はそんなの関係ないんだよ。自分が弱者とまではいえないけど、昔いじめられたことは今でも引きずっていて。
小学生のときに一時期アメリカに住んでいたんだけど、日本の中学校に入学したら、自分では馴染めてると思ってるのになぜかいじめられちゃって。その後の人生に“背骨があると感じられるかどうか”って人生の初期の段階で決まると思ってるんだけど、僕は背骨がない側の人生で。今は外面こそ幸せそうな人生に見えるかもしれないけど、自分の感覚としてはそうは思えない。
──なるほど。
座二郎 この前も小学生の息子が学校を遅刻してね。遅刻すると家族と一緒じゃないと教室に入れないルールなんだけど。息子と一緒に教室に入ったら友達が「いぇーいっ!」って息子のことを迎え入れてくれて。そのとき、自分にもこんな風に友達に恵まれた人生もあったのかな、って考えちゃったな。
僕にはそういう友達がずっといなくて。通勤漫画家として話題になってた時期が一番周りからチヤホヤされてうれしかった。なんでもいいから、もっと売れたいし、人気者になりたい! それこそ、マンスプもしたいよ!
──そこでマンスプに繋がってくるんですね。
座二郎 うん。だって、おかしくない? なんのために漫画とか描いてきたかっていうと、いろいろ勉強してモノを知って、偉そうにしたかったからなんだよ。漫画家とか作家って「俺がわかったことを皆に教えてやる」って姿勢が基本じゃん。
視野を広げておもしろいおじさんになれば若い子から話を聞かれると思ってたのに、いざ自分がおじさんになったら急に「マンスプ」とか言われちゃう世界になっちゃった。去年くらいに「マンスプ」って言葉を知ったときはびっくりしたよ。これ、普通に自分がしてることだ!って。したいよ、マンスプ。そのためにいろいろ勉強して今まで頑張ってきたんだもん。
──マンスプしたい人って、これまでの人生もずっとマンスプ欲があったんですかね…?
座二郎 うーん。オタク寄りの人って、昔からずっと何か説明したいことを早口で説明するでしょ。それがある年齢を超えると、急にマンスプ呼ばわりされちゃうみたいな感じじゃないかな。
──なるほど。この人みたいにマンスプしたい!って憧れの人とかっていたりします?
座二郎 荒俣宏みたいになりたい! 僕くらいの年代の人はね、みんな心の中に荒俣宏を飼ってると思うよ。やっぱ荒俣宏みたいにいろんなことを偉そうにしゃべりたいもん。
──偉そうにしゃべりたいけどマンスプといわれてしまう世の中で、今後はどう生きていきたいですか?
座二郎 なんでもいいから、人気者になりたいね。
──座二郎さんはできることがいっぱいありますよね。家の設計でも、漫画でも、絵でも、文章でも、人気になれればなんでもいいのでしょうか?
座二郎 うん、なんでもいい。とにかく人気者になって、マンスプしたい!
写真・文/山下素童