“マンスプ射精おじさん”の正体とは

──すごい! 本当に家に屋根がないんですね。家の中の空気がすごくきれいですが、冬なのでちょっと寒いです。

座二郎 そうだね。夏は暑いし、冬は寒いよ。今の時期だと青梅街道から枯葉が飛んできて、上から家に入ってくるよ。

──なるほど。本題に入りますが、座二郎さんはマンスプしたくて仕方ない状態になるまでどんな人生を歩んで来られたのでしょうか?

座二郎 早稲田大学建築学科の修士課程を卒業して、25歳から大手ゼネコンで建築の設計の仕事をしてたんだけど、2年前、47歳のときにその会社をやめたんだよね。

建築の設計って複数人でやるんだけど、世に名前が出るのは中心となる一人の建築家の名前だけでね。設計に携わっていても自分の名前は世に出ないし、年齢的にもこのままだと社内における出世もないなってことがだんだんと見えてきて。自分の人生の可能性がひらける感触がなくなっちゃったから、会社をやめたんだよね。

マンスプがしたくて仕方がない座二郎さん。屋根のない自宅のリビングにて
マンスプがしたくて仕方がない座二郎さん。屋根のない自宅のリビングにて

──なるほど。その建築会社で働くかたわら、通勤電車内で漫画を描いていて“通勤漫画家"と呼ばれていたんですね。

座二郎 うん。もともと若いころはモテたくてバンドをやってたんだけど、全然売れなくて。その時はまだ僕が片想い中だった今の妻から「声がいいからラジオやりなよ」って言われて、インターネットでラジオを始めて。その時のラジオネームが「座二郎」。

ラジオの企画で会社帰りの電車の中で漫画を書くというのをやったら、思いのほか上手く描けちゃって。手ごたえがあったから賞に応募してみたら、31歳のときに「週刊モーニング」の新人賞を取って漫画家になった。その後は自分の子どものためだけに描いた絵本が、賞をもらったりして。

──すごいですね。賞を取ったタイミングでサラリーマンをやめることは考えなかったんですか?

座二郎 建築の仕事で社宅に入っていたから、仕事をやめるなら同時に新居探しもしなくちゃいけない状態になってしまってなかなかやめられなくて。その間に子どもが3人できて余裕もなくなって。4年前、45歳のときにこの屋根のない家を造ってやっと社宅から解放されて、それも独立できた要因の1つだね。

──なるほど。この家は屋根がないこと以外にも、特徴のある家ですよね。

座二郎 普通、建築家ってなるべく外から物が見えなくなるスッキリとした収納をよしとするんだけど。僕は基本的に収納は外から見えるようにしたほうがいいと思っていて。自分の持ち物はどんどん他人に見せたほうがおもしろいからね。

ガラス張りの収納の中に棚があり、コレクションや生活用品が見えるようになっている
ガラス張りの収納の中に棚があり、コレクションや生活用品が見えるようになっている

座二郎 棚の一番下にある本は完全に他人に見せたいものでさ。ブノワ・ペータースとフランソワ・スクイテンの『闇の国々』って漫画があるんだけど。これ、僕の漫画も推薦してもらった文化庁メディア芸術祭に彼らも招待されていたから、そのときに僕がサインをもらったやつで。『闇の国々』みたいなヨーロッパの漫画って、日本の漫画とは違って空間的なものが多くて実に建築的でさ…(※筆者注記 : 聞いてもないことを説明しはじめるマンスプがしばらく続いたので割愛します)。

──話を戻しますが、今は独立して「座二郎」というペンネーム1本で仕事をしてるんですよね。どんな仕事をしてるんですか?

座二郎 今はイラストを描いたり、漫画を描いたり、文章を書いたり。頼まれれば個人で家の設計をすることもある。あと早稲田大学の建築学科で非常勤講師もやってる。