『キャプテン』『プレイボール』へと続く
「そうして、ようやくもらった最初の原稿が『校舎うらのイレブン』という読み切り作品(71年『別冊少年ジャンプ』)。いまでは〝ちばあきおの隠れた名作〟といわれるけど、依頼してから原稿をもらうまでずいぶん時間がかかったね。そもそも、原稿をお願いしたときも締め切りは設定せずに、ただ『待ってますから』とだけ伝えたんだけど、まさか、あれほど待つとは思わなかった(笑)。
その間、上司がたまに思い出したように『おい、谷口、あの原稿どうなったかな。ちょっと見てこい』というので行ってみると、最初に見せられたのは手帳大の画用紙。『なに、これ? まだこんな状態なの?』と思ったけど、その画用紙を50ページぐらい並べて『こんな感じ』と説明してくれた。『こりゃあ、まだまだ時間がかかるな』と思ったよ(笑)
次に行くと、メモの大きさが手帳の倍ぐらいになっていた。そして、その次ぐらいで、ようやく漫画用の原稿用紙に描いた下絵を見せてもらえた。結局、完成まで2年以上待ったと思う」
『校舎うらのイレブン』の舞台は『キャプテン』と同様、下町の中学校。その中学校に体育大学を卒業したばかりの熱血教師が着任してサッカー部を指導するという内容だ。あきおが原稿を完成させると、それを読んだ谷口の上司の阿部も気に入り、掲載が決まったという。ただ、この時点ではまだ、あきおは漫画家として、ある課題を抱えていた。
「初期のあきおさんには、もうひとつ苦しんでいたことがあった。お兄さんのアシスタントを約10年間も続けていたから、どうしてもタッチが『ちばてつや』に似てしまっている。そこから、どうやって、ちばあきお独自の画風を作っていくかも、ずいぶん悩んでいたと、後日あきおさんのアシスタントから聞いた」
兄・てつやに続いて、あきおも少年誌に進出した。そして、仕事上での最良のパートナーとなる谷口との出会いを通じて、あきおは漫画家として『キャプテン』『プレイボール』へと続くたしかなレールに乗ったといえるだろう。