中国全人代では達成不可能な数値目標が並んだ
中国共産党は懲りもせず虚言と誇大宣伝を並べ立てて自慢することが得意である。3月5日から13日まで開催された全人代では、初日に李克強首相(当時)が演説した。
GDP成長目標を5%とし、22年は「コロナ禍と不動産不況にも拘わらず3%伸びた」と白々しい噓を報告した。李克強は報告書を読みあげながらも、忸怩たる思いがあったのではないか。
都市の新規雇用は1200万人、失業率を5.5%とする。インフレ抑制を3%前後とし、赤字国債の上限はGDPの3%とする。また食糧5000万トンを増産する等とおおよそ達成不可能な数値目標を羅列した。
政府活動報告で目立った表現には「習近平同志を核心とする党中央の力強い指導」、「習同志の核心としての地位と習を中心とする党中央の権威を守る」など、時代錯誤の修辞が続き、「貧困脱却堅塁攻略戦に勝利する」との抽象的で意味不明な表現がある。要するに貧困層を減らし、皆の暮らし向きが良くなるように努力すると言いたいのだ。
内需拡大の項目では「地方政府特別債は3兆8000億元〔76兆円〕とする」とあって、表現に隠れているが、地方政府債務を新規債券発行で肩代わりし、当面誤魔化せと言っているようなものである。
地方政府が乱発した債券は既に1000兆円を超えた(公式には900兆円前後)
地方政府が乱発した債券は既に1000兆円を超えた(公式には900兆円前後)。
名指しはしていないが欧米のサプライチェーンの分断に関して「製造業の重要産業チェーンに関して国を挙げて重要な核心技術をめぐる難関を乗り越え、ハイテク研究開発と応用促進を加速する。デジタル経済をおおいに促進する」とした一方で、「外資の市場参入規制を緩和し、TPP加入交渉を推進する」と主張した。
同時に「金融」と「香港、マカオ、台湾」の項目で、政府活動報告は何を言ったのか。「習近平の強軍思想」を貫徹し、環境にも取り組むとしたうえで、金融では「監督監査を強め、地域性、系統性金融リスクを回避する。大手不動産企業の経営危機に対処し、負債比率を改善し、無計画な拡大経営を防ぎ、不動産の安定成長をうながす」。このため「地方政府の債務リスクを防止・解消し、債務期限構造を改善し、利息負担を低減し、新規発行額を抑え、債務残高を削減する」とした。
この箇所を裏読みすると不動産は無謀な計画で大借金の山を築いたが、利下げと期限を延ばして救済措置をとるという意味だろう。そして、なんとか市況の暴落を防げないものかと言っているのである。
「昨年の不動産投資は前年比10%減。それだけでGDPは3%の下落圧力になる。それでも実質3%の成長をとげたとは信じがたい」(田村秀男氏『産経新聞』3月18日付)。
ちなみに全人代が終わった3月20日、習政権の首席補佐官となる中央弁事処長に蔡奇が指名され、また香港マカオ弁事処主任は丁薛祥が指名された。ふたりとも昨秋の党大会で政治局常務委員に抜擢された習近平側近である。