2023年4月から長期休館
東京・渋谷の複合文化施設Bunkamura内にあるミニシアター「ル・シネマ」は、隣接する東急百貨店本店の解体工事と跡地一帯の再開発に伴い、2023年4月から長期休館に入る。今の雰囲気を味わえるのはあと1年となるが、東急文化村・シネマ運営室プログラミングプロデューサーの中村由紀子さんは「映画を通して観客の皆さんに広い世界を届けたいという思いでセレクションしてきました。作品のテイストは様々ですが、気持ちは変わらずに上映を続けたい。そして、2023年4月以降もなにをしたら皆さんとつながっていられるか、絶賛思案中です」と思いを語る。
1980年代のミニシアターブームを牽引し、いまだ個性的な映画館が立ち並ぶ渋谷。その中でル・シネマは、1989年にオープンと後発。館名は、同じ東急グループがかつて東京・町田で運営していた「まちだ東急ル・シネマ」から受け継いだもので、女性層の共感を得るような欧州とアジアの芸術の香り高い作品を上映してきた。歴代興行成績ベスト10が、同館の歴史と特色を物語っている。
① ジャック・ドワイヨン監督『ポネット』(1996)
② チェン・カイコー監督『さらば、わが愛 覇王別姫』(1993)
③ レジス・ヴァルニエ監督『インドシナ』(1992)
④ ブリュノ・ニュイッテン監督『カミーユ・クローデル』(1988)
⑤ チャン・イーモウ監督『初恋のきた道』(1999)
⑥ パトリス・シェロー監督『王妃マルゴ』(1994)
⑦ ニルス・タヴェルニエ監督『エトワール』(2000)
⑧ ジャン=ポール・ラプノー監督『シラノ・ド・ベルジュラック』(1990)
⑨ パトリス・ルコント監督『タンゴ』(1993)
⑩ パトリス・ルコント監督『髪結いの亭主』(1990)
「『ポネット』は主演のヴィクトワール・ティヴィソルのビジュアルが良かったですからね。当時4歳の彼女が、ヴェネチア国際映画祭女優賞を史上最年少で受賞したことも話題になりました。演劇を上映する劇場や美術館、コンサートホールなどを擁する文化施設にあるのが当館の特徴なので、舞台やアート関連作品の人気が高く、こちらもそういった作品を意識的に編成しています。特にBunkamura ザ・ミュージアムが女性のアーティストをフィーチャーしてきたことから、フリーダ・カーロの生涯を描いた『フリーダ』(2002)も上映しました。今はジェンダーに関する課題も注目されるようになってきましたが、観客の皆さんにも意識として持っていただけるよう、以前からこだわってセレクションしてきた部分でもあります」(中村さん)