『偶然と想像』はル・シネマで初めて上映した日本映画

そのル・シネマでは、2021年12月17日から濱口竜介監督『偶然と想像』が上映された。同館が日本映画をかけるのは初めてで、男性や若い世代など観客層を広げている。
「日本映画を上映しないという意思はなく、ただセレクションするタイミングが掴めずにいました。そんなときにコロナ禍に入り、いつも訪れていたベルリン国際映画祭がオンライン開催に。ただし一部の公式作品は日本のバイヤー向けに都内の試写室で見せていただけることになり、そこで拝見する機会を得ました。これまでとは違う日本映画が出てきたという印象を強く受けて、この作品ならうちの劇場で上映しても観客が受け止めてくれるのではないかと、上映を決断しました」(中村さん)

雰囲気を味わうなら今! 1年後に休館する渋谷のミニシアター「Bunkamura ル・シネマ」_5
雰囲気を味わうなら今! 1年後に休館する渋谷のミニシアター「Bunkamura ル・シネマ」_6
『偶然と想像』
©2021 NEOPA / fictive

初の日本映画というだけではない。その時点で、劇場公開に連動したバーチャル・スクリーン「Reel」での同時配信と、2022年1月に東京・下北沢でオープンするミニシアター、シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」のこけら落とし作品に決まっていた。普通に考えたら、その分、自社の劇場の動員に影響が出るのではないか?と敬遠しそうなところだが、それでも上映を希望した。
「我々も同時配信の作品を上映するのは初めてでしたが、これまでに海外ですでにDVDが発売されていたり、配信されている作品を上映したこともあります。それで動員が妨げられるという結果にはなっていません。しかも『Reel』は収益が配給会社と全国の上映館に配分されるというミニシアターと配給の共存を模索する試みの一環ですので、了承しました」(中村さん)
「濱口監督の作品を見るのは実は初めてだったのですが、ベルリンの試写で拝見し、ぜひ上映したいと思いました。上映中、居合わせた他の配給の人たちからもクスクス笑いが起こっていたんですよね。映画館ならではの体験が味わえるこういう作品ならば、たとえ映画館と同一価格で同時配信したとしても、劇場でも見たいと思わせてくれる作品ではないかと思いました」(同シネマ運営室マネジャー・野口由紀さん)。