「金太郎、石川を背負う。」(集英社文庫・コミック版2巻収録)
電車のホームに落下した息子を救う
金太郎がほんの少し目を離したすきに、電車のホームへ転落してしまった息子・竜太。同僚・石川の叫び声で異変に気づくと、金太郎は迷わずホームにダイブする。
迫りくる電車。間一髪で竜太を抱え上げ、反対側のホームへ向かって投げる。自分の足は電車にかすめられる。それでも金太郎は竜太の無事を確認し、こう言う。
「反対のホームにあんたの顔が見えたんだ。とっさに竜太を投げるしかなかった」
命を預けた相手は石川だった。だがその石川が金太郎の前に現れた理由は、社内で揉め事を起こすきっかけとなっている金太郎に、退職を促すためだった。石川はこれまで、金太郎をよく思ってはいなかった。
その話を聞いた金太郎は、あっさりと言う。石川の望みであれば、会社を辞めてもいいと。恩人に対する義理を果たすためなら、躊躇はない。
だが、その姿を目の当たりにした石川の心は変わる。
「俺の人生をお前にかける。一生、付き合ってくれるか?」
これまで金太郎に対して複雑な思いを抱いていた石川の評価が、一気に反転する瞬間だ。命を預けられたことで、今度は自分の人生を預けると決める。この回は言葉よりも、衝動的で野性的なやり取りによって、男同士の信頼が生まれる瞬間を描いたエピソードと言っていい。
そして、どうしても考えてしまうのがホームドアの存在だ。
日本で最初のホームドア(ホーム柵)が設置されたのは1974年、東海道新幹線・熱海駅だとされる。都市鉄道としての本格導入は、1991年の東京メトロ南北線が最初だという。
とはいえ、日本でホームドアの本格的な整備が進んだのは1990年代後半以降。平成初期には、ほとんどの駅にホームドアはなく、ホームの縁と線路のあいだは完全に“むき出し”だった。
現在は設置が大きく進み、東京都内の地下鉄駅ではほぼすべてに導入されている。一方で、JR線や私鉄では、導入が駅ごとにまばら。全国的に見れば、いまだ完全普及とは言えない状況だ。
平成初期のホームは、今よりもずっと危うかった。今回、竜太が落下した駅の規模を考えると、もし現代であればホームドアが設置されていた可能性は高い。そう考えると、この事故そのものが、時代を映しているとも言える。
一人で子どもを見ている親にとって、ホームでの一瞬の気の緩みは命取りになりかねない。安全対策が進んだ今だからこそ、ホームドアのありがたみはより実感される。
ただ一方で、こうも思う。もしホームドアがあったなら、今回の出来事は起きなかった。そして、金太郎と石川のあの強烈な信頼関係も、生まれなかったかもしれない。安全が整った時代だとしたら、二人はどのようにして絆を結んだのだろうか。
ホームドアのない時代が生んだ、命と人生を懸けた約束。第15話はそんな時代性も内包したエピソードである。























