監察医が忘れられないシーン

「検死をしてきて忘れられないシーンがありますか」

と聞かれ、思い起こすと自然に涙が出てきた。

不思議なことに、検死をしているときは、たとえ切ない気分ややるせない気分になることはあったにせよ、涙が出ることなどなかった。

おそらくきちんと検死をして、事件の真相を解明しなくてはという切迫感が、涙を止めていたのだろう。泣いていては仕事にならないのだ。

「三つあげるとしたら何ですか」

と聞かれた。

30年にわたる監察医時代、2万体にも及ぶ検死の中で忘れられないシーンか……。

私は思い起こした。