「金太郎、サハラに立つ。」(集英社文庫・コミック版6巻収録)

過酷すぎる海外赴任で金太郎は……

『サラリーマン金太郎』第53話は、「海外赴任」と聞いて普通に想像するレベルを一気に飛び越えてくる回である。

ナビリアにやってきた金太郎たちは、いよいよ砂漠の現場へ向かうことになる。だが、着いて早々、日本の常識がまったく通じない場面に出くわす。

まず街中では、金太郎が商人に爆竹を投げられ、驚いて通行人の女性にぶつかってしまう。すぐに謝って彼女を起こすが、これが現地ではとんでもない行為とみなされる。人妻の体に触れたら、その夫に殺されても文句は言えない、という感覚なのだ。金太郎は何が起きたのかもよく分からないまま、いきなり警察に連行されそうになる。

さらに驚くのは、砂漠の移動である。現場へ向かう車は、見渡す限り何もない砂漠を時速160キロで走り続ける。しかも移動時間は約7時間。日本人の感覚で言えば、それだけでかなりきつい。

しかも周囲にあるのは、熱風と砂ばかりだ。現場に出る前から、すでに「逃げ出したくなる」と言い出す人間が出ていたというのもよく分かる。第53話は、海外赴任の華やかさではなく、その過酷さと理不尽さをこれでもかと見せつけてくる。

そんな中でも金太郎だけは、「すげえ!」と砂漠にはしゃぎ、現地の人とすぐに打ち解けてラクダにまで乗せてもらう。

そして、その姿を見た仲間たちは「矢島さんを見てると、ここを乗り切れそうな気がする」と感じ始める。過酷な環境で本当に必要なのは、理屈だけではない。こんな場所でも前を向ける人間が一人いるだけで、チームの空気は変わるのだと感じさせる。

第53話は、日本の常識が通じない海外赴任のしんどさと、それでも前に進ませる“誰か一人の強さ”を描いた一話である。