「金太郎、ガキどもを叱る。」(集英社文庫・コミック版2巻収録)
夜中の2時にたたき起こされる初老の役員たち
夜中2時に全役員を自宅に呼びつける。
漫画『サラリーマン金太郎』第16話で描かれるのは、そんな“それありかよ”なシーンだ。海外出張から帰った大島社長は寝つけず、妙な胸騒ぎに襲われる。大和会長が何か企んでいるのではないか――そう感じたのだ。
そこで取った行動が、真夜中の緊急招集。
「わしだ! 武田君はいるか!? 寝ている!? いいからすぐに叩き起こせー!」「すぐに全役員をワシの家へ集めさせろ!」
今すぐって。夜中の2時である。しかも役員たちは全員、それなりの年齢だ。コンプラ違反というか、ブラック企業というか、パワハラというか……と言いたくなる。
だが、そんな言葉はこの漫画の舞台である90年代前半には、まだ一般化していなかった。
いまなら「コンプライアンス窓口に相談します」と言いたくなる場面だが、日本企業で“コンプライアンス”という言葉が本格的に広がったのは1990年代後半以降。不祥事が相次ぎ、企業統治(ガバナンス)が重視されるようになってからだ。
「パワハラ」という言葉が広まり始めたのは2001年前後、「ブラック企業」も2000年代に入ってからインターネット上で使われ始めたとされている。こうしたラベルが存在しなければ、問題も問題として認識されにくい。
さらに言えば、「働き方改革関連法」が施行されたのは2019年。残業時間の上限規制や有給取得義務が法的に整備されたのは、ごく最近の話だ。
つまり、大島社長の行動を明確に断罪する“現代的な言葉”は、この時代にはまだ揃っていなかった。
ただし、ひとつ重要な点がある。働き方改革や労働基準法の規制は、基本的に“労働者”に適用される法律だということ。取締役などの役員は会社法上の立場であり、労基法上の労働者には該当しない。つまり、今でも役員に対しては残業上限という概念すら存在しない。
ただ、今回の行動で何より恐ろしいのは、大島社長が“ただの勘”で役員を集めていること。そして、その勘が当たってしまっていることだ。
今なら炎上案件。だが当時は、こうした無茶が“カリスマ”と紙一重だったのだろう。いや、いまも報じられていないだけで、似たような風習は残っているのかもしれない。大手企業ほど、トップの一声が絶対という文化が根強いこともある。
夜中2時の全員集合。
それありかよ、と笑いながらも、どこかで「そんな時代だった」と思ってしまう。この空気こそが、第16話のリアリティだ。
いったい大島社長は役員を呼び寄せて何をしたのか。それは、第16話で。























