「遺族に謝罪しましょう」県幹部の説得もむなしく…

Aさんの尊厳は亡くなった後も傷つけられた。県議会の不信任決議を受けて失職した斎藤知事が再選を目指した昨年11月の出直し知事選で、「当選は目指さず斎藤さんを応援する」と言って立候補した立花孝志NHK党党首が、Aさんの私的データの「内容」とするものを街頭演説などで公言。

同時に「疑惑はうそで、斎藤さんはハメられた」との主張を繰り返し、これがSNSで拡散し斎藤知事再選を後押ししたとみられている。

だが、選挙の後も百条委の活動は続き、ついに今年3月4日、斎藤知事が部下にキレ散らかしたことはパワハラと認められる要素を満たし「不適切な叱責があったと言わざるを得ない」と明言する調査報告書を公表。そこではAさんの処分も「公益通報者保護法に違反している可能性が高い」と判断した。♯36

3月26日、記者会見を終え会見場を後にする斎藤元彦知事(撮影/集英社オンライン)
3月26日、記者会見を終え会見場を後にする斎藤元彦知事(撮影/集英社オンライン)


ここから兵庫県庁を巡る情勢は混迷の度を深める。斎藤氏は県議会本会議が百条委報告を了承した3月5日の記者会見で、報告書は「1つの見解」にすぎないとして受け入れない態度を強調。

さらにAさんの処分を撤回しないのかと聞かれると、突然饒舌になってAさんのパソコンに「倫理上極めて不適切な、わいせつな文書」があったと言い始めたのだ。♯37

「この発言で県職員の間では斎藤知事への不信がさらに高まりました。井ノ本氏や岸口、増山両県議と同じことを、知事が自ら始めたと受け止められました」(県職員)

一方、斎藤知事の支持者の間でも「知事と対立する県議会の一部である百条委の報告は信用できない」との不満の声が渦巻き、県が設置した第三者委員会なら百条委の判断を覆すだろうとの期待が高まっていた。

「ところが3月19日に出た第三者委報告は、パワハラも告発者つぶしの公益通報者保護法違反も、百条委以上に明確に認める内容になりました。二つの委員会で相次ぎ“クロ”と扱われた斎藤知事は即座に反応できず、1週間の沈黙を続けたのです」(地元記者)

昨年11月18日、兵庫県議会百条委に出席した増山誠県議(左)と岸口実県議(右) (撮影/集英社オンライン)
昨年11月18日、兵庫県議会百条委に出席した増山誠県議(左)と岸口実県議(右) (撮影/集英社オンライン)

そして、この間に複数の県幹部が斎藤知事に働きかけたのがAさんの名誉回復を図ることだったという。事情を知る県関係者が話す。

「“わいせつ文書”発言には多くの県職員と幹部が憤り、動揺しました。しかしもう一年も続く県の混乱を収めるには第三者委の報告が出たタイミングしかない。そうした考えで、複数の幹部が斎藤知事に対し、『Aさんの処分を撤回して名誉を回復させ、ご遺族にも謝罪しましょう』と働きかけたんです」