手塚治虫と『千夜一夜物語』

「もしもし、やなせさん、手塚治虫です」(『アンパンマンの遺書』)

長編アニメーション映画「千夜一夜物語」のキャラクターデザインと美術監督をやることになったのも、手塚からかかってきた一本の電話がきっかけでした。1960年代後半のある日のことです。

最初は、手塚治虫のイタズラだと思ったそうです。同じ「漫画集団」に属していたので面識はありました。が、「鉄腕アトム」「火の鳥」「ジャングル大帝」「リボンの騎士」など数々のヒット作を世に出し、自身の虫プロダクションでテレビアニメ作品も制作していた手塚は、おなじ漫画家ではあるものの、住む世界が違う人間、と思っていました。

漫画の神様、手塚治虫
漫画の神様、手塚治虫
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ところが、イタズラでも冗談でもなかったのです。後日、虫プロのプロデューサーから電話がかかってきました。

「新作映画のキャラクターデザインの件で、虫プロに出社してください」
「え、冗談じゃなかったの?」

すでにさまざまなジャンルの仕事を請け負ってきたやなせたかしですが、本格的なアニメーション制作にかかわるのはこれが初めてでした。しかも手塚治虫が巨額の資金を投じて、世界市場を相手につくる大人向けのアニメーション映画。虫プロのスタッフ250人中180人がかかわり、それでも足りずに外部のアニメスタジオに発注して、合計800人が制作に参加した大作です。

一方、やなせたかしのアニメの知識はゼロ。映画制作知識もゼロ。監督を務めた山本暎一に「ではイメージボードでも描いていただけますか」「はあ? イメージボードって何ですか」と言って呆れられる始末。シナリオを読み込んで、絵コンテを何枚も描いてボードに貼り付けていく。映画作りの現場に通い詰めました。

映画「千夜一夜物語」を実際に観てみましょう。現在はAmazonプライムなどで視聴が可能です。

アニメ映画『千夜一夜物語』(Amazon Primeより)
アニメ映画『千夜一夜物語』(Amazon Primeより)