日本の乳幼児がターゲットなのに、世界で6番目に…

「世界で6番目に稼いでいるキャラクター、それがアンパンマンです」

そう述べるのは、東京科学大学教授の柳瀬博一氏。柳瀬氏は先日『アンパンマンと日本人』を上梓し、乳幼児からこよなく愛されているアンパンマンの人気の秘密をまとめた。

「アメリカの金融会社『TitleMax』が、2018年までの世界のキャラクタービジネスの規模を累計したランキングで世界で最も稼いだIP(知的財産)のランキングを発表しているのですが、アンパンマンはなんと第6位です。

あくまでも人気の目安ですが、アンパンマンがキャラクタービジネスとして強い力を持っていることは確かです」(柳瀬博一氏、以下同)

実際、推定されるアンパンマンの市場規模は約7兆円。特徴的なのは、そのニーズとなる年齢層だ。

「アンパンマンは、日本の乳幼児のシェアが異様に高いのです。私の勤務校でアンケートを取ってみたところ、2000年代生まれの学生の87%がアンパンマンユーザーでした。

残りの1割はおそらく親がアニメを子どもに見せない層とアンパンマンが放送されていない外国からの留学生でしょうから、日本の乳幼児のほとんどがアンパンマンを通っているといっても過言ではないでしょう」

逆に言えば“日本の乳幼児”だけが見ているにもかかわらず、世界的なキャラクタービジネスの規模になっているのがアンパンマンなのだ。

全国5か所にある「アンパンマンこどもミュージアム」
全国5か所にある「アンパンマンこどもミュージアム」

ディズニー以上のキャラクターになるかもしれない  

一方で、気になるのは海外進出。アンパンマンが海外展開をはじめたのは2010年代半ばからと他のキャラクターと比べて、遅れをとっていた。

そのためポケモンやサンリオに比べると、まだまだ進出は進んでいない状態だ。そもそも海外ではパンの種類として“アンパン”が一般的でないこともあり、進出は厳しいという声もあるが……。

「まだ未知数ですが、僕はこれからアンパンマンが本格的に海外進出したら、とてつもなくブレイクする可能性があると思っています。

というのも、アンパンマンが日本で人気なのは、カルチャーではなく“ネイチャー”に働きかけたからです。スーパーマンなどのアメコミヒーローは、アメリカのカルチャーを理解していないと楽しめない部分がありますが、アンパンマンは乳幼児の生理的な部分であるネイチャーに働きかけてるんです。

進化生物学者の岸由二さんによれば、子どもの成長過程において、視覚情報の処理や吸収の仕方は明確に決まっているといいます。

人間は他者の顔を認識することが生存条件なので、子どもは丸くて目が2つあってニコニコしている顔を優位に汲み取るといわれています。

それと、子どもは多様性が好きなんです。同じ形だけど違う種類を持つものにとても反応する。昆虫図鑑に夢中になるようなものですね。

アンパンマンは3頭身をベースにしながらも、なんと2300種類以上ものキャラクターがいるんです。ギネス記録にも登録されていますが、まさに子どもの好きな条件を兼ね揃えている。

1990年代以降、世界トップのキャラクタービジネスに上り詰めたポケットモンスター=ポケモンと似ていますね。ポケモンも1000を超えるキャラクターが存在し、生き物を採集して愛でたり、友達同士で戦わせたり、という狩猟採集民としてのネイチャーに訴えかけた。

ですから、どんな国の子どもでもアンパンマンを楽しめる可能性があります」

取材中に柳瀬氏が絶賛した『アンパンマン大図鑑 げんき100ばい 公式キャラクターブック』
取材中に柳瀬氏が絶賛した『アンパンマン大図鑑 げんき100ばい 公式キャラクターブック』

アンパンマンは現在、中国を手がかりに海外進出を行なおうとしている。中国の市場規模は日本の15倍ほど。ここでブレイクすれば、世界進出の大きな足がかりになる。 

「中国での成功によっては、アンパンマンがディズニー以上のキャラクターになってもおかしくないと思います」