良質なファンを増やすために大切なこと
いろいろなデメリットも見えてきたが、松尾氏は今後インバウンド戦略を展開するうえで意識すべき点を提言する。
「大分県由布院温泉は以前、観光地として大きく成功したのですが、その弊害としてまさに近隣住民にとっては住みにくい街になってしまった。そのことを反省して、“住民が住みやすい観光地こそが優れた観光地”という理念のもと、交通調査をして自動車の乗り入れを規制したり、景観を統一したり、近隣の農家と共同したりといった街づくりに着手。
そして、由布院温泉は“良質なファン”が増え、住民からも観光客からも愛される観光地になりました。高級品にお金を使う富裕層がイコール地元にとってありがたい客ではありません。街と住民にリスペクトのある良質なファンであれば懐具合に関係なく、やさしく末長く、結局たくさんのお金を使ってくれます。そういった観光地を目指せば、なにも高級路線に転換する必要は生まれません」
良質なファンを増やす街づくりを目指すためには、別に特別なことは必要なく、下記の8つを街づくりのポイントとして例示している。
・近隣住民が気楽に買い物できる街
・安心して便利に暮らせる防災性に優れた街
・急な病気や怪我があってもすぐに優れた医療にかかれる街
・公共交通が充実して快適な街
・子どもが自由に遊べる街
・お年寄りでも障害者でも使いやすいバリアフリー化されてケアの行き届いた街
・暮らしに困って犯罪に走らざるを得ない人がいない街
・観光資源である歴史や文化や自然などを、住民が誇りを持って暮らしの一部にして、大事に守っている街
「これを目指せば、自ずと良質なファンはついてきます。その結果、世界中の多様な観光客にとって『長期に滞在して何度も訪れたい』と思える街になるでしょう」(松尾氏)
そこに住む住民の暮らしのために労働や土地を豊かに確保する街づくりを進めることが、外国人観光客の満足度・リピート率にもつながるのかもしれない。
どこにでもある街並みになりつつある京都
それでは、インバウンドを盛り上げるため、すなわち日本に住む人が暮らしやすい街づくりをするために政府や自治体が講じるべき政策にとして「特別なことはせず、福祉、医療、教育、防災、子育て支援など人々のために財政出動すればいい。そして、地元の庶民向けの小規模伝統産業が成り立たなくなるような税制はやめること」と話す。
「また、近年各地で進行している伝統技能衰退と景観破壊などをとめなければいけません。例えば京都市では、住民が豊かに暮らすための支出を減らし、伝統技能継承のための予算もほとんどつけません。おまけに地下に新幹線を通すために地下水脈を壊したり、駅前をどこにでもある街並みに再開発したりなど、 街の良さを損なうようなことにお金を使う計画ばかり立ててきました。
京都市は観光地の代名詞ですが、今のままでは外国人観光客だけではなく日本人観光客からも見放されかねない。京都市に限らず、今後は住民や伝統文化などに目を向けたお金の使い方を意識してほしいです」
今後もインバウンド戦略を推進するのであれば、まずは住民ファーストの視点を持って運営してほしい。
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取材・文/望月悠木