相手を支配するという目的

20分で終わるのであればオンラインでいいのに、京都から東京にくることを公務員に強いる政治家は、仕事そのものでなく、会いにこさせることで自尊心を満足させたいのだろう。

オンラインで仕事ができるのなら、政治家が外遊する必要もない。首脳の会談も対面でする必要はない。突然の会議キャンセルが議長国のメンツを潰すと感じるのも、オンラインでの会議の有用性がまだ認識されていないからである。

学会もコロナ禍で中止になったり、オンラインで開催されたりした。今後もせめて対面だけでなく、オンラインでの聴講がオプションで可能であるのが望ましい。学生にとって遠隔地で開かれる学会に参加するための交通費の負担は大変だった。

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対面の強制だけではない。今日、オプションをなくし、つながりが強制されることが多くなってきた。例えば、SNSやLINEは広く利用されているが、これらのツールを利用しない人は、変わり者どころか、コミュニケーション能力に欠けるとの烙印を押されかねない。SNSを利用しない作家はベストセラーを出していても特別だと見なされる。

私はSNSでも時々発信しているが、フォロワーが多くはないので、新刊本に触れた記事をSNSで拡散してほしいといわれると困ってしまう。本を出版したいと思っても、フォロワー数が多いことを条件にする出版社があると聞いたことがある。

このように、つながりを強制することには支配という目的があり、有用性や便利さよりも、管理したいのである。



文/岸見一郎
写真/shutterstock

子どもを「ほめる」ことが「命令」になる?「属性付与」の危険性

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岸見一郎
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ISBN:978-4569856216
私たちは子どもの頃から「人間関係は大切にしよう」と教え込まれ、つながりを結ぶことが強制されることもある。しかし、人とつながるとはどういうことなのかがよく理解されておらず、他人との「絆」が依存・支配関係になってしまうことも多い。

「私」を失わないためには孤独を恐れてはいけない。私たちにはつながらない覚悟が必要なのだ。望ましくない人間関係を捨てて、偽りのつながりを真のつながりに変えるための考え方や方法を哲学者が語る。
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