無限に繰り返されるスクロールの中毒性
私はそれを自分自身で見てきた。テスコや他のスーパーマーケットで働きながら、ティックトックを作成している人たちのランクについて私が書いていたとき、私のティックトックアルゴリズムがそれに適応した。
私はこうした動画を探しだし、何度も繰り返し視聴していたので、ティックトックは私がスーパーマーケットの動画が好きなのだと思ったのだろう。
そして私は、スーパーマーケットの通路をカートを押しながら進み、チーズとバターのあいだを動きまわる人たちの動画を手に入れた。
コロナ禍のなか店の行列に並んでハッシュタグチャレンジを実践する人々のストーリーを調査しながら、私が観察に別の変数を加えると、ティックトックは私の関心の一つと思われるもの―スーパーマーケット―と別の関心、つまり行列とを三角測量できると考えた。
ティックトックは店の外ではなくスーパーマーケットの中で行列に並ぶ人々の動画をすかさず提供してきた。
この手の行列の動画はイギリスに拠点を置く店のものだが、それはアプリがどんな動画を見せるかを判断する際に、ユーザーの拠点を、使用しているデバイスのタイプといったほかの要素とともに考慮する傾向があるからだ。
それは、摩擦(もめごと)の低減というティックトックの主たる目的の一つを助けるためだ。好みの動画を見つける努力をするほど、何度もそこに戻る確率は低くなる。確実にユーザーのことを知り、高品質の動画を絶え間なく提供することで、ティックトックはユーザーに見捨てられるのを防ごうとしている。
ティックトックはそのアルゴリズムの能力―および無限に繰り返されるスクロールの中毒性―をよくわかっている。
2020年2月、世界中のユーザーが自分のFor You Page に現れた奇妙な動画を見始めた。
そのうちの一人、17歳のリーナはある晩11 時頃にそんな動画の一つに出会った。それは彼女がアプリを開いた2時間後のことで、彼女はその動画フィードに夢中になった。
満面の笑みを浮かべたハンサムな若い青年がこちらに向かって挨拶している。笑うと眉が表情豊かに動き、目の周りに皺が浮かぶ。
「動画を見続けるって簡単なことなんだよ」。
男性がカメラレンズを通して彼女にお願いしている。「本当だよ、僕はずっと前からここにいる。だけど、これらの動画は明日もまだここにある。早めにベッドに入って、スマホを消し、なにかお気に入りのことをやって。最高の夜を!」
「ティックトックを切って」というPR
その青年はティックトッカーのゲイブ・アーウィン。
当時、彼はティックトック上に200万人のフォロワーがいて、通常のものではないアカウントから投稿していた。
@TikTokTips は、若者が多いユーザー基盤を誘い込もうとしているというクレームに対抗するために、バイトダンスが開設したアカウントだ。
プラットフォームの人気クリエイターの一部は、スマホを切らせようとする専用の動画を記録していた。その一人が陽気な金髪の少女(女性)コゼット・リナブ。
彼女の動画のサムネイルはいつも、素人っぽい若手女優でさえやらないようなド派手ではしゃいだ表現が目立っている。彼女は単刀直入に言う。
「最後にここを離れたのはいつ?」と見ている人たちをそそのかしている。
ティックトックを切ってと頼むのは直感に反した判断のように思われるが、それはかなり積極的なPRになり、アテンション・エコノミーに付け込んでいるという批判を封じている。
アプリが人を誘い込むための〝ダークパターン〟やデザイントリックをどのように利用しているかを研究しているあるソーシャルメディアの研究者によると、それは両方のいいとこ取りをしようとするティックトックの一例だという。
「最初に狡猾な中毒性のあるパターンをアプリの中心に組み込み、そして温情主義的だが、あたかも彼らが善良なインターネット市民に見えるようなパターンを加えるんだ」とアメリカのパデュー大学の准教授、コリン・グレイは話す。
こうしたパターンの中毒性については、ほんの少しの人たちのアプリの使い方をモニターすればわかることだ。
文/クリス・ストークル・ウォーカー 翻訳/村山 寿美子 写真/shutterstock
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