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バイトダンスの創業者は、迫力に欠け、がっかり感のあるマーク・ザッカーバーグ

「バイトダンスって知ってる?」。そう尋ねると、たいていの人はぽかんとした表情を返してくるだろう。

バイトダンス(字節跳動)とはティックトックのオーナーであり、ほかにも世界トップレベルのアプリを運営する企業だ。

2012年3月に創業され、2018年には日本のソフトバンクグループの出資を受けたことにより、その企業価値は当初の750億ドルから1800億ドルに跳ね上がった。

そのアプリを世界で20億人が利用しているという事実にもかかわらず、2020年の収益は340億ドルと、バイトダンスは西側諸国のなかではあえて目立たない存在でいる。主役は商品だと考えているからだ。

それが、地味だが熱意に満ちた創業者、ジャン・イーミン(張一鳴)の戦略なのだ。

彼の仲間でありライバルでもあるミュージカリーの創業者、同じ中国人のアレックス・ジューは独創的だが少々軽はずみなところもあるのに対し、イーミンは慎重でものごとに集中するタイプだ。アリババグループの元CEOで、押しが強く精力的で社交的な人物として知られるジャック・マー(馬雲)と比較すると、彼は少々鈍い印象も与える。

だが、それはあくまで印象だ。彼は〝ディレイド・グラティフィケーション(Delayed Gratification)〟(将来のより大きな成果のために、目先の欲求を我慢する)を実践している。

その合理的な性格―いつもTシャツとジーパンという衣服のチョイスからもわかる―のおかげで、彼は平均的な中国人経営者よりも、他人を気にせずのんびりしたところがある。たとえるなら、滑稽でピンボールのような性格のイーロン・マスクというよりはむしろ、いささか迫力に欠け、がっかり感のあるマーク・ザッカーバーグといった感じか。

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「偉大な人物は若い頃にはなんてことのない人生を送っている」

イーミンは1983年、福建省の沿岸地方にある竜岩という町で生まれた。ここは中国でも西側諸国への移住の割合が最も高いことで知られる町だが、彼はすさまじく独立心が強かった。

中国でハイテク業界に入る人の多くは既存の国内大企業への就職に満足するものだが、イーミンはそんなルートには目もくれなかった。既存の勝者に便乗し、手っ取り早く手に入れた成功に酔いしれる道は選ばず、遠い先を見越して着々と準備を進めていた。

彼は天津の南開大学でソフトウェア工学を学んだ。好きな生物学の講座は定員を超えており、最初に取ったマイクロエレクトロニクスの授業は好きにはなれなかったからだ。

非常に勉強好きであったが、大学の仲間との交流も楽しんでいた。妻との出会いも大学だったが、それに加えて親しい友人の多くは、キャンパスや授業が終わったあとに彼が開くバーベキューの席で知り合った。

多くの大学生が勉強と同じくらいパーティーに時間を費やすものだが、イーミンは違っていた。天津市にある南開区は中国の北部に位置する港湾都市で、北京のように賑やかな街ではなかったことも理由の一つなのだろう。

だが、それが彼自身の基準でもあったのだ。大学での最初の2年間、彼はスティーブ・ジョブズの伝記やジャック・ウェルチのビジネス本『ウィニング勝利の経営』(日経BPマーケティング刊)をはじめとする多くの本を貪り読んだ。自身が崇拝するビジネスパーソンに関する本を読むことで、キャリアの選択や将来の計画にあたってますます気長に辛抱強くかまえるようになった。

「偉大な人物は若い頃にはなんてことのない人生を送っており、その成功は時間をかけて徐々に得られたものだとわかるはずだ」とイーミンは出身大学の学生たちに語っている。

「最初はみんなごく普通の人だったんだ」