「牛乳2本とパン2個」深まる2人の仲
朝、姉さんの楽屋を訪ねて、
「おはようございます」と挨拶をする。
以前だったら、
「おはよう。キー坊、牛乳とパン買(こ)うてきて」
となるところが、
「牛乳2本とパン2個買うてきて」に変わったのです。
もちろん増えた「1本」と「1個」は私の分。彼女との距離が近づいた喜びもありましたが、恥ずかしながら「1食浮く」という喜びのほうが大きかった。次第に私も厚かましくなり、2人の間では100円を借りたり返したり、ということも……。人気コメディエンヌと付き人のような関係が急速に縮まり、いつしか呼び方も「姉さん」から「ヘレン」へと変わっていく。自然な流れで2人の仲は深まっていきました。
職場結婚を嫌う吉本のこと。まして売れっ子女優の人気が下がることは何としても避けたいところです。2人の間にあった高い障壁は、いつしか2人の将来に立ちふさがるようになっていました。
それでも若い2人にはその壁を乗り越える覚悟がありました。西成にアパートを借りて、同棲を始めたのです。
アパートの名前は「熱海荘」。六畳一間のささやかな愛の巣でした。
文/西川きよし
写真/文藝春秋、吉本興業提供
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