熟年が青年に勝る「セックススキル」とは?

もちろん、こうした条件だけが揃っても、誰の身にも「人生最高のセックス」が訪れるとは限りません。ここで欠かせないのが、「セックススキル」と呼ばれるものです。スキルという言葉に、百戦錬磨のAV男優が繰り出す手技やアクロバティックな体位をイメージする人もいるかもしれません。

しかし、ここでいうスキルとは、「相手のしてほしいことを叶えるため手元に選択肢をたくさん持っている」こと、そして、「状況に合わせて選択肢を相手に提示できる」こと

―いわば「大人の余裕」といわれるものです。

自身の経験を振り返り、「20代の頃は、相手がどう思っているかなど考えるヒマもなく、力任せで独りよがりなセックスをしていた」「あのとき、もしかしたら相手を傷つけてしまったかもしれない……」など、苦い思い出がよぎる人もいるのではないでしょうか。肌と肌を重ねるという、ある意味、とてもリスキーなコミュニケーションであるセックスは、いつもうまくいくとは限りません。経験の浅い若い頃はなおさらで、誰しもそんな後悔を抱えているものです。

しかし、50~60代になると、これまでの経験を生かし、相手の反応を見ながら対応する余裕も生まれてきます。若い頃の後悔や反省が糧となるのです。

「この女性は、騎乗位が感じるみたいだから、今日は騎乗位を多めに取り入れよう」「この子は後背位だと少しつらそうだから、代わりに正常位をいっぱいしよう」といった具合です。自分で手いっぱいになりがちな若い頃と比べ、一歩引いて、相手とのコミュニケーションを楽しめるようになります。

相手が喜ぶことを想像しながら、自分の希望や欲望よりも二人の関係性を優先し、合わせていく。このとき、主語は常に「相手」にあります。

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もちろん、こうした大人の余裕は、単に年齢を重ねただけで身につくものではありません。相手を思いやる優しさや深い洞察力、豊かな想像力が必要になります。

事実、中高年になっても、「オレは、正常位でガンガン腰を振ってイクのが好きなんや!」「フェラチオは喉奥深くまで咥えてもらわんとな!」など、相手が感じているかどうかは二の次で、ただひたすら自分の欲求を発散するだけ……という残念な人もいます。このような状態は、到底「最高のセックス」といえるものではありません。

独りよがりなコミュニケーションを繰り返すパートナーに愛想を尽かした末、子どもが成人したことを機に熟年離婚をした……という夫婦も珍しくありません。そこまでいかずとも、パートナーの独りよがりなセックスにノーとはいえず、セックスが義務化し、苦痛を伴う「お務め」になってしまっている人も多くいます。富永ペインクリニックの性交痛外来には、セックス時の痛みに我慢に我慢を重ねた末、どうにもならず門を叩いてくる女性が大勢います。