世界初の「もみじ饅頭」自販機
「えー、何これ?」
「こんなのあるんだ!」
二人組の女性が自動販売機を指差しながらはしゃいでいる。すると今度は30〜40代と見られる男性がやってきて、クールな表情で自販機のボタンを押していた。
広島県の玄関口である広島空港の搭乗ゲート付近に、広島銘菓「もみじ饅頭」の自販機があるのをご存じだろうか。恐らく“世界初”であろう、この自販機を開発したのは、厳島神社のある宮島に本店を構える紅葉堂だ。
紅葉堂は1912年創業の老舗もみじ饅頭メーカー。2023年度の売上高は約3億8000万円を見込む。広島県内にもみじ饅頭メーカーは20社ほど存在し、市場全体の規模は100〜120億円とされている。その中で紅葉堂は決して大きな会社とはいえない。
ただし、他にはないヒット商品がある。それが「揚げもみじ」だ。もみじ饅頭に衣を付けて揚げたものだが、珍しさと食べ歩きの手軽さも相まって、02年に発売してすぐに人気に火が付いた。今では年間100万個も売れる、宮島を代表するスイーツである。
この商品を発案したのが、紅葉堂5代目で、現在の社長である竹内基浩さん(48)。“奇襲戦法”が自分の持ち味だと語る竹内さんが放った新たな矢が、もみじ饅頭の自販機だった。
「愛媛県は蛇口をひねるとみかんジュースが出るという都市伝説がありますよね。
広島でもああいうのをやりたかった。『わしら広島県民はもみじ饅頭なんて自販機で買ってるよ』と言ったら、県外の人は驚いてくれるんじゃないかなと思って」
ネタのように聞こえるかもしれないが、自販機での売り上げは伸びていて、今期は2500万円に達する勢いだ。コロナ禍で会社が苦しんだ時の救世主にもなった。
現在の設置台数は広島県内に28台。25年までには100台を目指すと竹内さんの鼻息は荒い。なぜ自販機ビジネスに本腰を入れようと思ったのだろうか。