現地の観客からどっと笑いが起きたシーン

ところが、スクリーン下に表示されるスペイン語字幕が小さく、後方の席から凝視する私には読めません。これで理解できるのだろうか。今度は興奮が不安に変わっていきます。そんな心配が吹き飛んだのは、会場が笑いに包まれた瞬間でした。

保守政治家が推奨する育鵬社の歴史教科書の代表執筆者で東大名誉教授の伊藤隆さんが語る場面。「教科書が目指すものは?」という私の質問に対し、「ちゃんとした日本人を作ることです」「ちゃんとしたとは?」「…左翼ではない」と明言するシーンにどっと笑いが起きたのでした。

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スクリーン下に表示されるスペイン語字幕は小さかった

「リアクションが起きるツボは同じなんや、よっしゃー!」、私は感動して、心でこう叫んだと思います。国内上映とほぼ同じ反応が続いて、ラスト、校庭で遊ぶ児童たちのシーンが黒味に変わった途端、大きな拍手が――。この映画を歓迎します、そう観客が表明したと感じる熱量に痺れていました。

この後はトークのはずですが、私に前へ出るよう指示するスタッフもいません。座席のそばで立ちすくんでいると、撮影していたMBS同僚の猶原祥光が駆け寄ってきて「マイクの前へ出てください!」と急かしました。慌てて通訳のリナさんとスクリーンの前に立って簡単な説明を加えた後、会場から「制作にどんな苦労があったのか」など質問を受けたのです。

忘れられないのは終了後、劇場からロビーへ出るまで、次々観客が駆け寄って話しかけてきたことでした。スペイン語は全く理解できませんが、「ありがとう」「応援します」と声をかけられているのがわかりました。

進行の説明も誘導もなく戸惑った最初の局面は、観客の熱に触れ、そんなのどうだっていい!このリアクションこそ宝だ!と感じ入ったのでした。