与えられすぎる環境は、結果的に自らを縛りつけてしまう
——なぜ日本では息苦しさを感じるのでしょうか。野本さんの考えを教えてください。
ひとつの要因として、日本には「与えられすぎている環境」があると思います。社会保障制度が整っていて治安もよく、医療や公共交通機関も整備されています。今は物価が高騰気味とはいえ、世界的に見たら生活しやすい国です。
そしてこれらの制度や設備は、自分が働きかけなくても勝手に動いていきます。毎日時間通りに営業する店や、きちんと動くエレベーター、マニュアル通りにサービス提供されるレストランやホテルなど…挙げたらキリがありません。
すると「予定通りは当たり前なんだ」「保証があるのが当然だろう」と思うようになります。それどころか、不測の事態が起きると「ちゃんと予定通りに動いて!」と要求をぶつけるようになってしまうことも。
つまり、人は多くを与えられすぎると外にばかり目を向けてしまい、「なんで自分の常識とは違うのだ」と、他と比較して苦しむようになってしまう。それが今の日本人が感じる息苦しさの正体だと考えています。
——マレーシアは与えられすぎてない、ということでしょうか。
マレーシアには日本のような国民健康保険もないし、乳児の集団検診のようなこともしていません。ここまで与えられるものがないと、予測不能な人生について常に考え、選び、行動していかなくてはなりません。
パッケージツアーのような『おまかせ状態』で生きることが難しいため、むしろ、不慮の事態が起きた時に対応する力がついていきます。突然、翌日が国民の休日になることもあります。
——マレーシアの人々は、ビジネスの世界でも息苦しさが少なく、ラクに働いているのでしょうか。
実は、最近の調査では、日本と変わらず長時間労働しているマレーシア人もいることがわかっています。しかし、一緒に仕事をしてみると、コミュニケーションや物事の決定などが、非常にスムーズで驚きます。
マレーシアのビジネスシーンを見て何度も感じたのは、ひとつひとつの業務に完璧さを求めないんだな、ということです。日本ならではの完璧で計画通り、かつ敷かれたレール通りに手順を踏むというやり方と比較すると、だいぶ楽に感じますね。