オートクチュールすぎて、誰かに渡したくない

「自分のためだけに生きることに、若干飽きてきた」舞台『宝飾時計』で初タッグ。高畑充希×根本宗子が語る30代のリアル_02

──稽古の雰囲気はいかがですか?

根本 今回は完全にオリジナルの新作ですし、全員にあて書きをしているので、出演者の8人に台詞を喋ってもらえることが日々楽しいです。稽古をしながら台本を書いたり、書き換えたりできるので、とてもやりやすいですね。

高畑 私はこれまで、もともとある戯曲を演じることが多かったので、稽古をしながらちょっとずつ台本をもらえる現場って、あまり経験がなくて。毎日、稽古場に行くたびに新しい台本が配給される感じは、漫画の連載を読むみたいですごく楽しいです。

1幕に張りめぐらされていた伏線が2幕で回収されていくので、「なるほど、そういうことか!」という爽快感がすごくて。根本さんは天才だなって、毎日楽しく読んでいます。根本さんワールドを提示してくださるので、不安にならずについていけていますね。

──根本さんが描くものが恋愛から愛にシフトしているようにも感じました。

根本 「今回は愛を描こう」みたいな、あまり大きな力みがあると失敗しそうなので、全然そこは意識的ではないんですけど(笑)。なるべくフラットに、今自分がどういうことを感じているのかを書くようにしています。実感が持てて、躍動している台詞や人物を描こうということだけ心がけています。

もちろん、充希ちゃんが演じる俳優のゆりかと、成田凌さん演じるマネージャーで恋人の大小路との恋愛模様も描かれますが、ラブストーリーかと言われるとそういう物語じゃない。広い意味で、いろんな愛の形を描いているということは、紛れもない事実ですけどね。

あと、「この10年があったからこの考えに行き着いたな」とか、人によって過ごしてきた時間や思い出ってあるじゃないですか。自分自身、20代と30代では考えていることが違う。そういう時間や思いの差を登場人物によって書き分けることで、ゆりかと大小路の人生が浮かび上がればいいなと思っています。

この前、ご本人にも伝えましたが、何歳になっても充希ちゃんに演じてほしい作品だと思っていて。演劇の新作を生むことって、作家も俳優陣もスタッフも、全員がものすごい大変なんです。なのに日本は1回で終わることがすごく多いので、何度も再演できて、なおかつ主人公を演じる人がずっと変わらない舞台があってもいいのかなって。

10年後、40代になった充希ちゃんや私がこの作品を再演したら、「ここはもっとサラッと描いていいシーンだったね」となるかもしれない。普段は普遍的なものを書こうとしますが、今回は今思っていることを割と強めに描きました。

──再演を想定しているのに、普遍的なものにしなかったのはなぜですか?

根本 普遍的なものは、何度再演しても演出が変わらないと思うんです。でも、まだ自分の中で答えが出ていないぼんやりしたものを書くことで、演出する年齢によって、戯曲に対する捉え方が変わるのが面白いだろうなと思って。

──根本さんの思いを聞いて、高畑さんはどう思われましたか?

高畑 私がこれまで演じてきた役は、『ピーター・パン』だったり『奇跡の人』だったり、誰かから受け継ぐことが多くて。演目が素晴らしければ素晴らしいほど、後輩にしっかり渡していきたいという気持ちが強かったんです。

でも今回はあまりにも“オートクチュール”すぎて、誰かに渡したくないなという思いがありますね。それくらい、いろんな方が全力で作ってくださったことを目の当たりにしていますから。「いろんな人の念が乗ってるよ」と言われますが(笑)、あまり重圧として感じすぎず、楽しみたいです。

──演出してみて感じる、高畑さんの俳優としての魅力は?


根本 すごく稀有な存在だなと思っていて。歌も歌えてお芝居もできて、映像でも舞台でも主役が張れる。我々の世代であまりいないし、すごく貴重な存在だと思います。ミュージカルとストレートプレイの架け橋になれる人って本当に素敵だし、演劇作家から引っ張りだこなのもすごく納得。

あと、持っている言葉の多さにも驚かされます。私は演出するときに、「今はどういう思考回路でその台詞を言っているんですか?」と質問することが多くて。それは別に意地悪な意味じゃなく、演じる人の思いを知った上で、自分なりの導き方を決めたいから。

充希ちゃんは明確に言葉で説明してくれるので、役を一緒に立体化していく作業がとてもやりやすいです。

──高畑さんは、念願の根本さんの演出を受けてみての感想は?

高畑 根本さんも、ものすごく的確に言葉で伝えてくださる人。演じていて自分なりの感情が芽生えたとしても、それが見ている人に伝わりやすいかは、またちょっと違うときもあるなと思っていて。舞台上にいる私たちよりも、見てくれる人がどれだけ楽しめるかが一番大切。そこにちゃんと導いてもらえるから、本当にありがたくて。

普段は「これはどういうことかな?」と思っても、私の中で一個ハードルがあって、相談を躊躇することもあるんです。根本さんは前から知っている人だし、年齢的にも近い。面白いものにしたいというパワーがすごくあるから、困ったときも信頼して相談できるし、安心してお稽古に臨めています。