今は、生きていると感じる
──東出さんは現在、撮影以外は狩猟をして生活されているとか?
はい。北関東の田舎で生活することで、東京では体験できなかった空の色の美しさや、水の冷たさ、陽の暑さ……、そういうことを感じる日々です。今は、生きてるって感じます。
野生動物をどうやって獲ろうか考えると、彼らと同じ目線で生きようと思うようになるんです。野生動物は、食べること、食べられないようにすること、そして生殖行為。この3つだけ念頭に置いて生きています。それでも10何年の寿命を、身ひとつで自然の中で生きているわけで。
それを思うと、人間はなんて非力なんだろうと思います。
──山での暮らしで戸惑うことは?
元々アウトドアが好きだったので、自然の中に身を置くことに不自由さはあまりなく。その代わり、ご飯を炊くために薪を割ったり、薪を割るためには薪が乾いていなければいけなかったり、生きるためにやらなければいけないことも多い。
薪を割ると、テッポウムシというカミキリムシの幼虫が出てくるんですけど、山に暮らす子供たちは、昔おやつにしていたらしいんです。それをちょっと食べてみて「すげえうまい!」と知ったり。
肉がなくなったら獲りに行くし、今は小屋をとにかく建てたいと思っていて。生きるために必要な作業と、それに付随する知識を、1日ひとつ、身につけられればいいなと思いながら生活しています。
──特に身につけたいことは?
自信を持ってきのこを採れるようになりたいですね。地面から生えているきのこは毒が多いからあまり食べないんですけど、この前、狩猟の師匠のところに持っていって「これ、食べられますかね」と聞いたんです。
そしたら「俺は食わない。でも食ってみろ。でっくん(東出さん)が明日生きていたら、俺も食うから」って(笑)。
怖くなって山にぶちまけました。そんな生活です。
──山での生活と、映画の撮影現場とのギャップに戸惑うことは?
ないですね。昔も公園とかにいってぶつくさ言いながらセリフを覚えていましたけど、その作業が、今では畑仕事や小屋を建てることに変わったくらい。
そばに台本を置いてセリフを覚えるのですが、テレビや雑音がないから、役者の生活にはすごく向いている日常だと思います。
──映画を見る機会はあるんですか?
ありますよ。たまに東京に仕事で来たときも、ちょっと時間を遅らせて映画を見てから帰ることもありますし。あと、住んでいる山の近くのキャンプ場でWi-Fiを拾えるんで、タブレットで見ることもあります。
最近だとぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞した自主映画『J005311』(2022)を見ました。お芝居がすごくよかったです。面白いので、ぜひ見てみてください。