ベッドで飛び跳ねる二日酔いのキアヌ・リーヴス!!

もうひとりの忘れがたいスターは、キアヌ・リーヴスです。インタビューは何度かしていますが、1994年、『スピード』の宣伝のために来日したときの単独インタビューは、人生でもっとも緊張を強いられたものになりました。

ジャッキー・チェンの人生相談と、二日酔いのキアヌ・リーヴス_c
配給会社がもらってくれたキアヌのサイン(矢崎由紀子さん所蔵)

といっても、緊張の原因はキアヌではなく、私たちのほうにありました。そのインタビューは、「ロードショー」の増刊写真集『スピード/キアヌ・リーブスのすべて』に掲載するものでした。

同写真集には、キアヌの友人のカメラマンが編集部へ直接売り込みに来た写真も掲載する予定になっており、その使用許可をエージェントを介さずキアヌ本人から取り付けるというインポッシブルなミッションを、我々取材陣は帯びていたのです。交渉役は、ウディ・アレン似の映画通として知られた名物編集者のK氏。彼の交渉がうまく運ぶように、キアヌのご機嫌を取り結ぶ役目も私は負っていました。

ところが、取材当日のキアヌのコンディションは最悪でした。場所は、都内の某ホテルのスイートルーム。時は、帰国日の朝。前夜の送別会で冷酒をしこたま飲んだとかで、キアヌの顔はむくみでパンパン。絵に描いたような二日酔いで、挨拶の言葉をひねり出すのもつらそうです。私の脳内は、「ヤバいよヤバいよ」と、出川哲ちゃんが大暴走。キアヌが顔をしかめるたび、「お願いだから吐かないで」と祈ったものです。

果たして無事にインタビューを終え、K氏の出番までたどりつけるだろうか?と、不安しかない取材の滑り出し――でしたが、好きで映画の仕事をしている人は、映画の話をしているうちに自然とのってくるものなのです。キアヌもしかりで、だんだんと目が輝き出し、『ハムレット』の主演舞台の話題が出たときには、「左利きを注意されながら決闘するハムレット」を、おどけながら熱演。

さらに、「ちょっと写真撮らせて」と頼むと、靴のままベッドに飛び乗り、『ホーム・アローン』のマコーレー・カルキンよろしくピョンピョン跳ねるという、謎のハイ・テンションで対応してくれたのでした。そのタイミングを見計らって決行されたK氏のミッションも大成功。そんなこんなの安堵の溜息の中で完成した写真集は、あの時の焦りと情熱が詰まった宝物になりました。

ジャッキー・チェンの人生相談と、二日酔いのキアヌ・リーヴス_d
苦労のかいあって写真集は大好評だった ©ロードショー/集英社 ※現在は販売しておりません

あれから28年。今では来日するスターの数がめっきり減り、取材もオンラインが主流に。その分、キアヌ取材のような濃密な体験はできにくくなったように思います。往年のスターの中には、記者を待たせたまま福島の<リカちゃんキャッスル>に行っちゃったデミ・ムーアとか、インタビューをすっぽかしてライブハウスでハーモニカを吹いていたブルース・ウィリスとか、やらかしてくれる人たちも多々おりましたが、彼らの武勇伝にアタフタさせられたおかげで、ちょっとやそっとの想定外の事態には動じないタフさが身に付いたのも確か。これも、「ロードショー」に感謝していることのひとつです。