ウィニング・ショット

それともうひとつ、メジャーを目指すピッチャーに覚えておいてほしいこと。

それは、ウィニング・ショットを持ってほしいということです。メジャーのピッチャーはみんな、それぞれにウィニング・ショットを持っています。そして、そのボールがあるからこそ幾多のピンチを凌ぎ、第一線で活躍しているのです。

別に特別な球種である必要はありません。カーブでもスライダーでも、あるいはストレートだってかまわない。要は、ここ一番という時に、自分が自信を持って投げ込めるボール、それがひとつあればいいんです。

僕の場合だったら、やっぱりフォークでしょうか。

今までにも再三述べているとおり、あくまでもストレートあってのフォークなのですが、このボールがあったおかげで、僕は昨シーズン、幸いにも奪三振王を取ることができました。別に意識して三振ばかり狙っていたわけではないのですが、ここぞという場面では自分を楽にすることができる。僕にとっては、そういうボールなんです。

しかし、このウィニング・ショットというのは、人から教わってどうこうなるものではありません。自分で工夫し、繰り返し練習してマスターするものです。

1996年に野茂英雄が指摘した日米の野球の違いと、メジャーを目指す人たちへのメッセージ 「明日の大リーガーたちへ」_2

「昨シーズン、近鉄からヤクルトに行って活躍した吉井のフォークは、野茂が伝授したものだ」─そう思い込んでいる人が多いようですが、伝授なんてとんでもない話です。本来、変化球というものは教わったとおりにやって、すぐ投げられるような簡単なものではないんです。

肩やヒジや手首の強さ、手のひらの大きさや指の長さに個人差があるわけですから、人と同じように投げて同じように変化するわけではない。僕が吉井さんに言ったのは、ごくごく基本的なことだけで、それを自分のモノにしたのはあくまでも吉井さん自身なんです。

だから、若い人たちにも自分で工夫して、何度も試行錯誤を繰り返しながら、自分だけのウィニング・ショットを開発してほしいと思います。

僕も今のフォークボールを自分のモノにするまでに、1年の歳月を必要としました。

社会人の時には、それこそ1日に何十球もフォークばかりを練習していました。そうしてマスターしたボールだからこそ、今、自信を持って投げられるのだし、打ち取った時の喜びも大きいのだと思います。

狙ったとおりに三振を取れた時の喜び、それは何物にも代えられないものがあります。

これまた、僕の好きなモノのたとえで恐縮ですが、思いどおりにファミコンを攻略した時のようなものと言ったらわかってもらえるでしょうか?

ピッチャーの中には「見逃しのほうが気持ちいい」「いや、空振りのほうがスカッとする」と、三振の種類にまでこだわる人がいるようですが、僕にはそういうこだわりはありません。ひとつはひとつ。見逃しであれ空振りであれ、三振に変わりはないですからね。

とにかく、自分が絶対的に自信を持っている武器で、相手バッターをねじ伏せていく。この快感を何度となく味わえるよう、自らのボールを磨いてほしいと思います。