提供する肉の質とキラーコンテンツの充実で期待値を超える
焼肉チェーンは店舗オペレーション効率化の観点から、セントラルキッチンでスライスした肉を冷凍し、店舗で解凍するケースが多い。しかし、この方法だとドリップと呼ばれる赤身を帯びた液体が出てしまう。ドリップは旨味のもとになるもので、栄養素が詰まったものだ。
調理された肉であれば、冷凍しても味が落ちることには気づきにくいものの、焼肉のように素材の味がダイレクトに伝わるものはごまかしがきかない。
そこで、焼肉きんぐは店内カットにこだわっている。人気メニューの一つである「壺漬けドラゴンハラミ」は一本ずつ手切りによる処理も行なわれている。手間をかけて提供されているのだ。
メニュー構成も巧みだ。一頭から500グラムしかとれない希少部位「きんぐカルビ」など、食べ放題でも顧客を引き付けるキラーコンテンツを用意している。
肉の質、メニューの内容ともに期待値の高い顧客を満足させる内容になっている。
一方、安楽亭が重視しているのは安心・安全だ。特に無添加にこだわっている。安楽亭は牛脂注入肉を使わないことで有名だ。これは赤身肉などに添加物を注入したもので、2013年には関西の有名ホテルで食材偽装が発覚したことで問題視された。しかし、消費者庁が「牛脂注入加工肉」という一般名をつくって、その名称の広がりとともに牛脂注入肉に対する消費者の意識は変化しているはずだ。
そして、安心・安全であることは外食業界においていわば常識化しており、日常食型の飲食店にさえ浸透しきっている。安楽亭は価値観がアップデートされておらず、今の非日常型の店舗に求められるものをつかみ切れていない印象を受ける。
現在、安楽亭は学生専用食べ放題メニュー、100分2838円を集客フックにしている。安さを武器にしているが、それも時代を見誤っているように見える。
取材・文/不破聡