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中国・台湾・アメリカ・日本の軍事能力など様々な情報を基に分析を行い、もっとも可能性があると思われるシナリオに基づいて中国軍の台湾進行及び日本への波及、アメリカの参戦などのシミュレーションを行った。展開しているシナリオは、本書(第1部)で触れた図上演習の成果(日本政府の対応)を反映している。『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』より

台湾侵攻完全シミュレーション〈Xデーまで〉

2024年1月に行われた台湾総統選挙に合わせて、中国は台湾周辺地域において大規模な軍事演習を行った。SNSを活用して民進党の頼正巌候補(仮名)を誹謗中傷し、世論調査にも関与するなどして、親中国的な国民党候補を勝たせる輿論戦・情報戦を展開した。

しかし結果は民進党の頼候補が僅差で勝利し、第8代中華民国総統に就任した。
  
対中国強硬派かつ独立志向の強い政権が誕生したことを受けて、中国は台湾に対する戦狼外交(好戦的な発言に基づく外交)を強化した。台湾と国交を持つグアテマラ、バチカン、ハイチ、パラグアイ、エスワティニ、ツバル、セントビンセント及びグレナディーン諸島、セントクリストファーネイビス、ベリーズ、マーシャル、パラオ、ナウル、セントルシアの13ヵ国に対して援助外交を展開し、切り崩しを図った。

台湾は、面積が日本の九州よりやや小さい3万6000平方キロメートル、人口はオーストラリアとほぼ肩を並べる2300万人、GDPは世界第22位(2021年、以下同)、貿易輸出総額は第16位、ICパッケージ産業は第1位の国にもかかわらず、国連未加盟であるがゆえに多くの世界機関に加入していない。

元陸将が暴露する中国の「台湾侵攻」完全シミュレーション【第1部】中国経済の崩壊、台湾は国連総会に参加申請…_1
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西側諸国を中心として、世界における台湾の重要性から、世界保健機関(WHO)、国際海事機関(IMO)、国際民間航空機関(ICAO)などの国際機関に加盟、あるいはオブザーバーとしての参加を認めようとしているが中国が強く反対している。加えて中央アジア、アフリカ、中南米の国々に対して経済援助や軍事援助し、その見返りに台湾の加盟に反対するよう強く働きかけている。

中国はSNSを通じて「台湾政府は圧政を敷き、市民の自由を奪い、一部の政治家が利権を貪り、富裕層を厚遇している」との偽情報を拡散させていた。世界中に中国は正義、台湾は悪とのイメージを植え付けようと認知戦を展開していたのである。

「自由民主主義」の国・地域が2012年の最大42ヵ国・地域から、34にまで減少(2021年)し、権威主義体制の国家が増えたことも中国による認知戦の効果を増幅していた。
  
中国国内では不動産バブル崩壊の後遺症から抜け出せず、機械部品などの輸出産業で新興国からの追い上げを受けていた。半導体など先進工業産業の競争激化、急成長するアジア各国の追い上げ、それに伴う生産基盤の流出などによって、経済成長が大きく後退していた。

加えて国内の経済格差拡大、環境破壊、急速に進む高齢化、農村地帯の旱魃、地震や台風災害の多発によって農業生産が大打撃を受け、国民の不満は臨界点を迎えようとしていた。

このままでは国民の不満が共産党政権に向けられ、一党支配の基盤が崩壊しかねない。政府内にも経済政策の失敗を理由に現執行部の失脚を狙う幹部がいる。

習近平は、あらゆる障害を排除して政権基盤を盤石にする必要に迫られていた。