誰もいないはずの校舎で人の気配
昨年まで関西の美術系大学に通っていた平野さん(仮名)。その大学では課題がとにかく多く、美術系の学部の生徒は日々、課題に追われながら過ごしていたという。
「大学1年からデッサン、木材加工、ポスター制作、インスタレーションアートなど、課題を山のように出されてそれをこなすのに必死でした。夜間の活動申請をすれば、工房系の部屋などを放課後もずっと解放してくれるので、学期末のころはほとんど学校に泊まり込みのような状態で作業に明け暮れていました」(平野さん、以下同)
大学1年の後期でも課題を大量に出され、平野さんは毎日のように夜間も学校に残って作業をしていた。そんな中で、とあるルーティーンができていたという。
「うちの学校は古い校舎と新しい校舎がまざっていて、工房がある校舎は古い方でした。当然、設備も古く、トイレもウォシュレットがついていませんでした。私はキレイなトイレじゃないと絶対に“大”をできないたちで、トイレのたびに新しい校舎にまで足を運んでいたのです。
まあ、大学生になったばかりということで、まだ周りに“大”をしているのがバレるのが恥ずかしい年頃だったので、夜間は誰もいない新校舎にまで行って、用を足していたというのもありますね」
平野さんは新校舎のトイレのことを、心の中で“うんスポ(うんちスポット)”と呼んでいた。そしてある日、作業中にいつものようにもよおし、“うんスポ”へと駆けて行った。
「もう何度も行ったことのある、夜間の誰もいない新校舎なのですが、その日は入った瞬間に妙な雰囲気を感じました。直感的に、多分、この校舎の中に誰かがいると思ったのです。人の気配ってやつを感じたのです。
おそらく、守衛さんがこの校舎を巡回しているのだと思い、私は息を殺してそっと“うんスポ”へと向かいました。まあ、バレても問題はありませんが、“大”のためにわざわざこの校舎にまで来ていると説明するのが恥ずかしかったし、なんだか言い訳臭くて、不審者扱いされるのではないかとも思ったのです」